空腹時血糖は名前の通り空腹の時の血糖値であり、健康診断等では空腹の状態を求められる場合があります。
血糖値が高いと高血糖や糖尿病と判定されるため、空腹時血糖を下げておきたいと考える人もいるでしょう。
しかし、空腹時血糖は検査直前で簡単に下げられません。
血糖値を制御するには、普段の生活から見直す必要があります。
この記事では、空腹時血糖の基本と下げる方法について紹介します。
- 空腹時血糖が検査に用いられる理由
- 空腹時血糖を含めた高血糖や糖尿病の検査基準
- 空腹時血糖を下げるために必要な工夫
健康診断や糖尿病の再検査を行う予定の人は、ぜひ参考にしてください。
空腹時血糖は高血糖や糖尿病を検査する判断基準として適している
空腹時血糖とは、食事を摂っていない状態における血糖値です。
主に高血糖や糖尿病の検査で使われる数値であり、以下の理由から判断基準として適しています。
- 食事によって血糖値は大幅に変動するため、血糖値の変動が少ない空腹時に検査する必要がある
- 高血糖や糖尿病の場合、空腹時でも血糖値が高い数値になるため、異常を判断できる
空腹時血糖に該当するのは、基本的に朝まで10時間以上絶食した時の血糖値です。
しかし、一般的な健康診断では10時間の部分を省いて、朝食を摂らない状態での血糖値を求める場合もあります。
空腹時血糖はHbA1cや尿検査と合わせて高血糖や糖尿病を判断していく
空腹時血糖は血液検査を行って、以下の数値から正常や高血糖、糖尿病であるかを判別します。
- 正常:70~99mg/dL
- 正常高値血糖:100~109mg/dL
- 予備軍(境界型):110~125mg/dL
- 糖尿病:126mg/dL~
ただし、空腹時血糖の数値のみで、糖尿病であるか否かは確定できません。
糖尿病の判定には、同じく血液検査から判明するヘモグロビンA1c(HbA1c)の数値と、尿検査の数値も必要です。
HbA1c(血液検査) | 正常:〜5.5% 正常高値:5.6~5.9% 予備軍(境界型):6.0〜6.4% 糖尿病:6.5%~ |
---|---|
ブドウ糖(尿検査) | +が多いほど尿中のブドウ糖量が多いため、糖尿病の疑いが強まる ・- ・+- ・+=1+ ・2+ ・3+ ・4+ |
尿中アルプミン(尿検査) | 糖尿病の合併症である糖尿病性腎症の影響から腎臓に異常が発生する 正常:30mg/gCrより下 早期腎症:30-299mg/gCr 顕性腎症:300mg/gCr~ |
血液検査と尿検査の両方、もしくは片方に異常が見られると、糖尿病の可能性が高まります。
初回検査の数値から糖尿病の疑いがある場合は1ヶ月以内の再検査が行われる
健康診断などの検査で数値の異常が見られた場合、以下のように判断されます。
- 初回検査で空腹時血糖とHbA1cが糖尿病の範囲にある場合:糖尿病と診断される
- 初回検査で空腹時血糖のみ糖尿病の範囲にある場合:1ヶ月以内に再度尿検査と血液検査を行う
- 初回検査でHbA1cのみ糖尿病の範囲にある場合:再度血液検査が必須で、尿検査も必要により行われる
このように空腹時血糖かHbA1cのどちらか片方のみで異常が見られた場合、別日に再検査が行われます。
再検査における糖尿病の判断基準は、以下のとおりです。
初回検査 | 2回目の尿検査 | 2回目の血液検査 | その他の症状 | 診断結果 |
---|---|---|---|---|
空腹時血糖値のみ異常あり | 異常あり | 異常あり | – | 糖尿病 |
空腹時血糖値のみ異常あり | 異常あり | – | – | 糖尿病 |
空腹時血糖値のみ異常あり | – | 異常あり | – | 糖尿病 |
空腹時血糖値のみ異常あり | – | – | ・糖尿病の典型的な症状あり ・糖尿病性網膜症の症状が明確にあり | 糖尿病 |
空腹時血糖値のみ異常あり | – | – | – | 糖尿病の疑いあり |
HbA1cのみ異常あり | 異常あり | 異常あり | – | 糖尿病 |
HbA1cのみ異常あり | 異常あり | – | – | 糖尿病の疑いあり |
HbA1cのみ異常あり | – | 異常あり | – | 糖尿病の疑いあり |
HbA1cのみ異常あり | – | – | – | 糖尿病の疑いあり |
初回で数値の異常が発生している場合、2回目が正常範囲内であっても引き続き糖尿病の疑いがあると判定されます。
2回目の検査以降も定期的に検査を行いながら、数値の経過を見ていきます。
血糖値が高くなるのは生活習慣からインスリンに異常が発生している
高血糖は血液中のグルコース(ブドウ糖)濃度が、規定値よりも高い状態を指しています。
血糖値が上昇した場合、通常はすい臓から分泌されるインスリンの効果によって正常な数値に戻ります。
血糖値を下げられず、高血糖が常時続いていくと、様々な病気に発展する糖尿病になる可能性があります。
糖尿病は、以下の2種類に分けられます。
- 1型糖尿病:免疫異常によりすい臓から分泌されるインスリンが少なくなったり、出なくなったりする
- 2型糖尿病:肥満や運動不足などによる生活習慣の乱れや親族の糖尿病が遺伝する形で、インスリンの分泌量が少ない、もしくはインスリンの効果が薄くなる
国内の糖尿病の多くは2型糖尿病に該当しており、睡眠不足やストレスなどもインスリンの働きに影響を与えます。
空腹時血糖を下げるには食事や運動で血糖値を上げない工夫が必要になる
空腹時血糖は検査日の前日に食事を抜いたとしても、数値をごまかせません。
数値を下げるためには、日頃の食事や運動で継続的に血糖値を上げないようにする必要があります。
血糖値を上げない工夫としては、以下の3点が有効です。
- 普段から血糖値の急激な上昇を抑えられる食材を選ぶ
- 血糖値の上昇や食べ過ぎを抑えられるように食事の回数や食べる順番を守る
- インスリンの働きを良くすると共に栄養素をエネルギーとして利用できるように適度な運動を行う
高血糖の原因の1つになるのは過剰な糖質摂取ですが、糖質制限するだけでは血糖値を下げられません。
食事と運動を組み合わせると、血糖値を下げる効果があります。
食材選びでは糖質と脂質を抑えながら食物繊維の多い食材の摂取量を増やす
血糖値の上昇に関わる糖質や脂肪の原因になる脂質ですが、体にとっては必要な栄養素です。
完全に摂取を絶ってしまうと、血糖値の上昇は防げても別の不調につながる可能性があります。
そのため、食材選びでは摂取量を抑えつつ、必要な量の栄養素を摂るようにしましょう。
具体的には、以下のような工夫が考えられます。
- 摂取する糖質の量を調整する
- インスリンの働きを弱める肥満を防ぐために、脂質の摂取量を調整する
- 糖質の吸収を緩やかにする食物繊維を多めに摂取する
糖質や脂質の摂取量を抑えるのと同時に、食物繊維を含む食材の摂取量を増やすと、血糖値の上昇を抑えられます。
食べる機会の多い炭水化物は糖質が低い食材に置き換える
米やパン、麺類などの炭水化物は、毎日の主食として食べる人も多いでしょう。
しかし、炭水化物には糖質が多く含まれているため、空腹時血糖を下げるには摂取量を減らしたい食材です。
主食を完全に避けるのが難しい場合は、以下のような置き換えを行ってみてください。
炭水化物を含む食材 | 置き換えた食材 |
---|---|
精白米 | 雑穀米(玄米、麦、アワ、ヒエなど) |
小麦粉パン | 全粒粉パン |
うどんやパスタなどの麺類 | そば |
雑穀米や全粒粉パンも糖質を含んでいますが、置き換え前よりは糖質の摂取量を抑えられます。
1食あたりの摂取量が減った場合、毎日の食事でも少しずつ糖質を減らせます。
脂肪の元になる動物性脂肪を減らす代わりに不飽和脂肪酸で脂質を摂取する
肉類に含まれる脂質は動物性脂肪といわれており、多量に摂取していると、体内で脂肪になります。
空腹時血糖の上昇に関連する肥満を防ぐためには、脂質の摂取量もある程度抑えなければいけません。
肉類はタンパク質など必要な栄養素も多数含んでいるため、食べる際は以下のような工夫をしてみましょう。
- 脂身など脂質が多い部位を取り除く
- 調理する際は煮たり、焼いたりして余分な油を取る
食材の置き換えとしては、以下のような魚に含まれる不飽和脂肪酸が有効です。
- まぐろ
- さば
- 鮭
- さんま
不飽和脂肪酸には血中コレステロールを下げる効果があるため、肥満対策になります。
食物繊維を多く含む野菜やキノコ類は全体的に栄養価が高い
食物繊維は主に野菜やキノコ類、大豆類に多く含まれています。
中でも1個あたりの食物繊維の量が多いのは、以下の食材です。
野菜 | ・モロヘイヤ ・ブロッコリー ・オクラ |
---|---|
海藻類 | ・わかめ ・昆布 |
大豆類 | ・大豆 ・インゲン豆 ・納豆 |
キノコ類 | ・まいたけ ・えのき ・しめじ ・しいたけ |
上記の野菜はビタミン、大豆類はタンパク質など、食物繊維以外の栄養素も多数含んでいます。
ただし、血糖値の吸収を緩やかにするには、食事で毎回食物繊維を摂取する必要があります。
1回で大量に摂取しても1日効果が続くわけではないため、毎食1回は摂取できるように意識しましょう。
ブルーベリーなどに多く含まれるプロアントシアニジンには、糖の吸収を抑えたり、血糖値の上昇を抑制する効果が確認されています。
プロアントシアニジンを多く含む食材を意識するなど心がけましょう。
プロアントシアニジンを多く含む食品一覧
毎日の決まった時間の食事や栄養素の摂取順から血糖値の上昇を抑える
血糖値の上昇は食事の回数や量からも影響を受けるため、食事の摂り方も工夫が必要です。
食事の摂り方においては、以下のような工夫が考えられます。
- 1日3食を毎日決まった時間に食べる
- 食物繊維を含む食材を先に食べて、糖質のある食材は最後に回す
- 1回の食事で食べ過ぎないようにする
- 間食の回数を減らす
- ゆっくりとよく噛んで食べる
不定期な食事は1回あたりの食事量の増加や栄養不足につながり、間食を増やす原因にもなります。
糖質や脂質が少ない食材を選んでも、大量に食べてしまうと意味がないため、決まった時間の食事は重要です。
また、食物繊維が血糖値の吸収を緩やかにする効果は、食べた直後から発揮されるわけではありません。
満腹中枢を満たしつつ、食物繊維の効果を発揮させるまでの時間を作るためにゆっくりと食事を摂りましょう。
有酸素運動はインスリンの活発化と余分な糖脂質のエネルギー消費につながる
有酸素運動はインスリンや取り入れた栄養素に対して、以下のような効果が期待できます。
- 有酸素運動自体がインスリンの働きを活発にする
- 糖質は運動時にブドウ糖としてエネルギー消費されるため、血液中の余分な糖分が減る
- 脂質も運動時にエネルギー消費されるため、インスリンの働きを弱める肥満対策になる
糖尿病の治療においても、有酸素運動が運動療法として取り入れられています。
運動も食事と同じく1度変えただけでは効果が出ないため、継続的な運動が必要です。
ウォーキングやランニングなど、自分が続けられる範囲で有酸素運動を始めてみましょう。
空腹時血糖を下げるにはインスリンの働きが大切になってきます。
ポリフェノールの一種には、インスリンの分泌を促す、インスリンの効き目を高める作用がみつかっています。
詳しくは「インスリンの効き目向上。空腹時と食後血糖値をまとめて下げる」の記事をご覧ください。
空腹時血糖を下げるために普段の食事や運動の改善を継続していこう
空腹時血糖は高血糖や糖尿病の検査において、指標の1つとして使われています。
同じ血液検査から判明するHbA1cの数値や尿検査の結果と合わせて、糖尿病か否か判断されます。
高血糖の場合、検査前日に食事を抜いても、空腹時血糖をすぐには下げられません。
食事においては、糖質や脂質を抑えて食物繊維を多くしつつ、食べる回数や順番を意識しましょう。
摂取した栄養素は有酸素運動で消費できるうえ、インスリンの働きも活発にします。
改善した食事習慣と運動を継続させるためにも、無理のない範囲で行ってみてください。
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