糖尿病を治療するうえで大切なのが、ヘモグロビンA1c(ヘモグロビンエーワンシー)です。
糖尿病治療に励んでいる人はヘモグロビンA1cが思うように下がらず、苦しい思いをしている人も少なくありません。
血糖値は下がるのにヘモグロビンA1cがなかなか下がらないと悩む人は、ヘモグロビンA1cが下がらない理由について疑問を感じているのではないでしょうか。
低血糖のリスクをできるだけ増やさず、自分に適した治療を継続するためには、ヘモグロビンA1cやその数値が示す意味を理解しておくとよいでしょう。
本記事ではヘモグロビンA1cはどのようなものなのか、数値が下がるまでの期間や適正値に近づけるにはどうしたら良いのかというポイントを解説します。
- ヘモグロビンA1cとは
- ヘモグロビンA1cの数値が改善するまでの期間
- ヘモグロビンA1cの目標値について
- ヘモグロビンA1cを改善し維持するためのポイント
ヘモグロビンA1cはヘモグロビンと糖が結合したものでその数値は過去1〜2ヶ月の血糖値の平均を表す
ヘモグロビンA1cの数値は、過去1〜2ヶ月の血糖の平均を表します。
ヘモグロビンに結合している糖の割合を示すため、使用される単位は%です。
血液中の糖が多ければ多いほど糖化ヘモグロビンの数は増え、赤血球の寿命を迎えるまで体内を循環します。
一般的に赤血球の寿命は約120日といわれているものの、全ての期間において体内を循環しているわけではありません。
体内には赤血球がおよそ20兆存在するといわれており、1日あたり寿命を迎える赤血球は200万個以上もあります。
そして残り9割前後の体内を循環する糖化ヘモグロビンは、過去1〜2ヶ月に摂取した糖であるといわれています。
身体の状況がタイムリーに反映される随時血糖と異なり、ヘモグロビンA1cがなかなか下がらないのは、過去1〜2ヶ月の血糖の平均値であるのが理由です。
数ヶ月間しっかりと薬物療法をはじめ食事療法や運動療法を受けながら、規則正しい生活を送り、適正な血糖を維持できるとヘモグロビンA1cの数値は次第に下がります。
しかし受診の数日前から糖質を制限したり運動したりして節制しても、ヘモグロビンA1cは下がりません。
ヘモグロビンA1cの数値が改善されるまでに最低約2ヶ月は必要
前述したようにヘモグロビンA1cの値は、赤血球の寿命と関係しています。
ヘモグロビンA1cの数値を改善させるためには、医師の指導に沿った食事や運動、薬物療法をしっかりと継続する必要があります。
治療前の血糖値が高い場合はヘモグロビンA1cの値も高いため、数値の改善を目指すには治療前の糖化ヘモグロビンが寿命を迎えていなければなりません。
さらに顕著な数値の改善は難しく、ヘモグロビンの半減期は約60日であり、少なくとも検査の値が改善されるのは2ヶ月後以降となるでしょう。
ヘモグロビンA1cを改善させるには、糖質制限を徹底するだけではなく、薬物療法はもちろんバランスの良い食事が大切です。
しかし糖質制限の徹底により、ヘモグロビンA1cは大幅に改善されるものの、日常的に血糖値を低く保つ行動が時に低血糖を起こす要因にもなります。
さらに急激に血糖を下げるのは、血糖値が乱高下するだけではなく、長期的な血糖コントロールの悪化によって合併症を招く可能性もあります。
そのため、ある程度の期間をかけても、適切な食事や運動などの生活習慣によって長期的な血糖とヘモグロビンA1cの安定化を図るのが大切です。
ヘモグロビンA1cは焦らずにゆっくりと下げていく必要がある
糖尿病の治療経過を観察するために、ヘモグロビンA1cは大切な数値です。
しかしヘモグロビンA1cの目標値を6.0%と定められるのは、低血糖に陥るリスクが低く、達成可能であると判断できる状況にある場合です。
ヘモグロビンA1cの目標値に対して、自分自身の検査値が大幅に高い人の場合は、治療上で目標とする数値が必ずしも6.0%未満が良いとは限りません。
目標値に対して自分のヘモグロビンA1cが高いあまり、毎日の血糖値を低く保つ必要がある状況においては、低血糖を防ぐために異なる目標値が設定されます。
日本糖尿病学会では3段階で血糖コントロールの目標値を定めているため、個人の病状に見合った数値を目標に、ゆっくりと下げていくのが大切です。
糖尿病治療に用いられているヘモグロビンA1cの目標値
日本糖尿病学会では、以下のように糖尿病治療の目標値を明確に定めています。
血糖の正常化を目指す場合 | 6.0%未満 |
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合併症予防を目指す場合 | 7.0%未満 |
治療の強化を目指す場合 | 8.0%未満 |
治療前のヘモグロビンA1cが10.0%以上であった場合、急に6.0%未満を目指すとなると、低血糖と隣り合わせになるようなリスクを負いながらの治療が必要です。
治療後のヘモグロビンA1c値を6.0%未満と目標にできる人は、限られています。
もし治療前の数値が10%以上であった場合、最初から血糖の正常化を目指すのではなく、治療強化のために目標値は8.0%と定められるケースが少なくありません。
急激に血糖値を下げようとすると低血糖になるだけではなく、重症低血糖のリスクを招いたり、治療を継続できなかったりします。
血糖値を徐々に下げつつ、血糖コントロールを良好にしていくために、個人のライフスタイルや治療前の検査値を考慮しながら治療を計画していく必要があります。
ヘモグロビンA1cを改善させるためには規則正しい生活習慣が大切
ヘモグロビンA1cを改善させるには、長期間での良好な血糖コントロールが必要不可欠です。
糖が多く含まれる食べ物や飲み物を摂取すると、血糖は急上昇し、膵臓からインスリンが大量に分泌されます。
しかし大量に分泌されたインスリンが血糖を一気に下げ、低血糖が起こると、血糖値は安定しません。
不安定な血糖コントロールのまま長期間経過すると、動脈硬化の進行を招いた挙句、脳梗塞や心筋梗塞などの重篤な疾患になるリスクが高まります。
ほかにも糖尿病合併症を進行させる要因ともなるため、長期的に良好な血糖値を保ちながら合併症などのリスクを軽減していくのが大切です。
そこで必要なのが糖尿病治療のほかに、規則正しい生活習慣となります。
1.食事は3食規則正しい間隔と栄養バランスが整ったものを摂取する
日々の忙しさから朝食を抜いたり、昼食や夕食をほぼ毎日外食にしたりする人は少なくありません。
外食をした場合、選択した食事内容によっては高血糖の原因になるような糖質を多く含む食べ物があります。
とはいえ、バランスの良い食事のみを摂るのが良いわけではなく、食事間隔も大切です。
不規則な食事摂取は、低血糖を引き起こすきっかけや高血糖を起こす要因にもなります。
インスリンは頻繁な食事により分泌する回数が多くなる一方、少なければ食後に急上昇した血糖を下げるため、多量に必要です。
膵臓からインスリンが頻回あるいは多量に分泌されると、インスリン抵抗性や分泌不足を招きます。
そこで必要なのが、規則的な食事回数と栄養バランスが整った献立です。
欠食を無くし、規則的な食事回数を摂るようにするだけでも、血糖値の急上昇や低血糖を抑えられます。
食事内容は野菜とたんぱく質はもちろん、炭水化物をしっかりと含んだ献立を食べ、低血糖を予防するのが大切です。
しかし、炭水化物を先に食べてしまうと血糖値を上げる原因となるため、野菜が多く含まれたサラダなどを先に食べます。
やむを得ず欠食してしまったり、間食が必要な状況に遭遇したりしたときに備えて、小腹を満たせるようなクラッカーなどのお菓子を持ち運ぶと良いでしょう。
ほかにも食品交換表を活用するなどの工夫をして、規則的で栄養バランスが整った食事を心がけるのが、ヘモグロビンA1cを下げるための第一歩になります。
2.一週間に数回でも運動する習慣を身に付ける
これまで運動する習慣をまったく持ち合わせていなかったという人は、一週間に一回程度からでも、身体を動かすのが大切です。
ヘモグロビンA1cを適切に保ち、維持していくためには定期的な運動も欠かせません。
運動から長年遠ざかっていた人は、自分に適した運動の方法や身体負荷量を決めるところから始める必要があります。
糖尿病に効果的な運動療法は、週に150分以上あるいは週3回程度で行うのが良いとされています。
しかし年配の人や長い間運動から遠ざかっていた人が、はじめから推奨される運動量で身体を動かすと、怪我のリスクが高まります。
加えて、糖尿病になってから一度も運動療法を行った経験がない人は、身体を動かすのに適していない時間帯などの留意点も知っておくのが大切です。
特に空腹時に該当する食前などの時間帯は、身体を動かすのに適したタイミングではありません。
血糖が低い状態から運動を開始するのは、低血糖のリスクとなり得ます。
低血糖を回避しつつ、食後血糖の上昇を防ぐための運動に適したタイミングは食後30分が目安です。
ただし血糖降下薬を服用している人やインスリン注射を実施している人は、急な運動で低血糖を起こす可能性を考慮し、短時間の運動から始めるのが良いでしょう。
運動を始める段階では無理のない範囲で散歩などをして、徐々に身体にかける運動負荷の量を増やしていくのが良い方法です。
整形外科的な疾患を抱えていたり慢性疾患を抱えたりしている人は、椅子に座った状態で実施できるような運動療法もあります。
自分の疾患や身体の状況に見合った方法の運動を見つけ、無理のない範囲での運動を習慣づけましょう。
3.しっかりとした睡眠時間を確保する
睡眠不足は、慢性化すると交感神経を優位に働かせてしまうため、血糖値を上昇させる要因となります。
交感神経を活性化させる慢性的な睡眠不足は、インスリン感受性の低下やホルモンバランスの乱れを招き、血糖コントロールを悪化させる可能性のある状況です。
睡眠不足やストレスは身体に一定のストレスを感じさせるため、コルチゾールなどのホルモンが活発化し、血糖値を上げてしまいます。
ストレスを感じると、甘いものを欲したり食事量が増えたりする人もおり、ストレスを受ける状況自体も血糖値を上げる要因となります。
血糖値をより適切な数値に近づけるためには、睡眠不足やストレスを可能な限り減らしていくよう意識するのも大切です。
そして、睡眠時間は最低でも7〜8時間確保できるのが理想であるものの、いつも理想的な睡眠時間を確保できるとは限りません。
十分な睡眠時間を確保できなかった場合には、15分程度の仮眠時間の確保や、就寝前の入浴で身体を温めるなどの対処をするとリラックスできます。
自分なりのストレス解消法などを生活に取り入れながら、より良い生活の仕方を考えていくのが、血糖コントロールを良好なものとしていくためにも大切です。
良好なヘモグロビンA1cの数値を保つためには通院の継続も大切
短期間でヘモグロビンA1cを下げるのは難しく、長期的な治療や生活を改善していくための試行錯誤が必要です。
糖尿病の治療は、血糖値が一旦下がったら終了というわけではありません。
良好なヘモグロビンA1cの値を継続していくためには、しっかりとした治療はもちろん、定期的な経過観察と治療の見直しが大切です。
糖尿病の治療は長期に及ぶため、治療経過やライフスタイルを見直して、自分なりの生活スタイルを築きながら無理のない範囲で継続してみましょう。
糖尿病の人に向けて、医療機関や、地域によっては自治体を中心にサポート体制が整えられているところもあります。
ほかにも、糖尿病に特化した食事の宅配サービスなどを提供するサービスや、健康教室などを開催しているトレーニング施設などが多数あります。
自分ひとりで糖尿病を治療しようとするのではなく、周囲の手を借りたり公的サービスなどを利用したりしながら、糖尿病と付き合っていくのが大切です。