HbA1cは糖尿病を調べる血液検査項目の一つで、血糖値の経過を確認するための重要な数値です。
厚生労働省による令和元年国民・健康栄養調査によると、60代女性のHbA1c平均値は5.8%とされています。
この数値は、糖尿病の疑いが低いとされるHbA1cの正常値5.6%を上回ります。
女性は更年期、高齢期へと年齢を重ねるとともにHbA1cの平均値が上がっていくため、日々の生活の中で血糖値を上げない工夫が必要です。
糖尿病は、加齢とともに発症率が高くなる病気です。
血糖値を上げる原因や下げる方法についてよく理解して、糖尿病を予防しましょう。
この記事では、60代女性のHbA1c平均値や血糖値が上がる原因について解説します。
- HbA1cとは
- 60代女性のHbA1c平均値
- HbA1cが上がる原因
- HbA1cを下げる方法
HbA1cを下げるために効果的な食事や運動の方法についても解説しているため、ぜひ参考にしてください。
HbA1cは直近の血糖値の状態がわかる検査
HbA1cは、検査をする日より1〜2ヶ月前の血糖値の平均値を調べる血液検査の項目です。
糖尿病の診断目的だけではなく、糖尿病治療中の血糖値の経過を確認するためにも利用されています。
ヘモグロビンは血液中の赤血球内に存在するタンパク質で、全身に酸素を送る役割をもちます。
ヘモグロビンには血液中のブドウ糖と結合する性質があり、血液が体内を循環する間にヘモグロビンの糖化が進みます。
血糖値が高いほど糖化ヘモグロビンが増えるため、HbA1cは高い数値になります。
HbA1cは、血液中の糖化ヘモグロビンの割合をパーセントで示した数値です。
HbA1cの基準値
HbA1cは直近の血糖値の状態が確認できる検査で、慢性的に高血糖が起こっている場合に高い数値を示します。
糖尿病は、血糖値の数値によって進行状態を以下の4つに分類します。
- 正常値:糖尿病の疑いが低い状態
- 正常高値:将来的に糖尿病を発症するリスクが高い状態
- 境界型:糖尿病の疑いを否定できない状態
- 糖尿病型:糖尿病の可能性が高い状態
それぞれの分類に対しHbA1cの基準値が設定されており、糖尿病の進行状態を確認するための重要な指標となります。
HbA1cの基準値
正常値 | 正常高値 | 境界型 | 糖尿病型 |
---|---|---|---|
〜5.5% | 〜5.9% | 〜6.4% | 6.5%〜 |
血糖値を調べる検査には、HbA1cの他にも空腹時血糖値や食後血糖値などの検査があります。
糖尿病はHbA1cの数値だけではなく、複数の検査によって確定診断がなされます。
60代女性の平均値
厚生労働省による令和元年国民健康・栄養調査によると、60代女性のHbA1cの平均値は5.8%です。
血糖値は加齢に伴って平均値が上がり、糖尿病を発症するリスクが高くなります。
更年期以降で血糖値が高くなるのは、女性ホルモンの減少が原因の一つです。
そのため50代以降で血糖値の上昇がみられ、60代になると加齢に伴う身体機能の低下も加わり平均値が上がります。
厚生労働省の令和元年国民健康・栄養調査による女性の年代別HbA1c平均値
30代 | 40代 | 50代 | 60代 | 70代 |
---|---|---|---|---|
5.4% | 5.5% | 5.7% | 5.8% | 5.9% |
60代女性のHbA1cが上がるのは加齢とともに身体機能が低下するため
60代になると細胞数の減少や細胞の働きの衰退によって、徐々に身体機能が低下していきます。
回復力の低下によって病気の治りが遅く、病気が慢性化したり後遺症になったりする場合も多くなります。
認知機能の低下やうつ症状による生活習慣の悪化も、血糖値を上げる原因です。
60代では、加齢に伴って現れるさまざまな症状や疾患がHbA1cの数値に影響を与えます。
以下では、60代女性のHbA1c平均値が高くなる原因について解説します。
加齢とともにインスリンの分泌量が低下する
インスリンは膵臓のランゲルハンス島から分泌されるホルモンで、血糖値を下げる機能があります。
人の体内で血糖値を下げられるホルモンは、インスリンだけです。
インスリンは、以下の機能によって血糖値を安定させています。
- 食事から摂取したブドウ糖を全身の細胞に取り込み、エネルギー源として利用する
- ブドウ糖をグリコーゲンに変換し、肝臓や筋肉で貯蔵する
- 余分なブドウ糖を脂肪に変換し、脂肪細胞に蓄える
インスリンは空腹時であっても常に分泌されており、常時分泌されるインスリンを基礎分泌、食後に分泌されるインスリンを追加分泌といいます。
高齢になると、食事による血糖値の上昇を抑える追加分泌の機能が低下します。
食後の血糖値の急上昇は、動脈硬化を起こす原因の一つです。
動脈硬化は血管の壁がもろく硬くなる状態で、心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めます。
加齢に伴う筋肉量の低下で血糖値が下げられなくなる
加齢によって、体の細胞が老化し筋肉量が低下します。
そのため、筋肉量が減少するとブドウ糖を蓄えられる筋肉が少なくなり、十分に血糖値を下げられません。
余分なブドウ糖は脂肪として蓄積され、肥満になる人が多くなります。
肥満は糖尿病のリスクを高める原因の一つです。
女性は閉経を迎える更年期以降で、エストロゲンという女性ホルモンの分泌が減少します。
エストロゲンは、コレステロールのバランスを整える働きをもつホルモンです。
エストロゲンの減少によって、血液中の中性脂肪や内臓脂肪が増加し、肥満のリスクが高まります。
糖尿病以外の疾患による影響
女性は60代以降で、加齢によってさまざまな疾患を発症するリスクが高まります。
以下は、60代女性でリスクの高い疾患です。
- 生活習慣病
- 泌尿器科系疾患
- 婦人科系疾患(乳がん、子宮がん)
- 甲状腺疾患
- 骨粗鬆症
- うつ病
- 認知症
中でも高脂血症や高血圧などの生活習慣病は、糖尿病の発症にも強く影響を与えます。
この2つの疾患と糖尿病を併発すると動脈硬化を起こし、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの疾患を発症するリスクが通常よりも高くなります。
また、うつ病や認知症によって食生活のバランスが乱れると血糖値のコントロールが安定しなくなり、糖尿病のリスクが高まります。
食事でHbA1cを下げる3つのポイント
血糖値は食事によって上がるため、HbA1cを下げる方法として食事療法は重要です。
血糖値を下げる主な食事療法には、以下の方法があります。
- 1日3食を毎日決まった時間に摂る
- 腹八分目を目安にする
- 栄養バランスのよい食事を摂る
- よく噛んで食べる
- 炭水化物や脂質を摂りすぎない
- 甘い飲み物やお菓子などを食べ過ぎない
60代の女性は女性ホルモンの減少や身体機能の低下によって体重が増加するため、食事による血糖コントロールが必要です。
以下では、60代女性が特に気をつけたい食事方法について解説します。
毎日間食をしない
60代女性は基礎代謝の低下や女性ホルモンの分泌の減少によって、肥満のリスクが高くなります。
肥満は、HbA1cを上げる原因です。
通常の食事をしていても加齢とともに内臓脂肪が増加するため、摂取カロリーが増えると肥満になり血糖値が上がります。
糖分の多いチョコレートやケーキ、脂質の多いポテトチップなどのお菓子は日常的に食べないようにしましょう。
塩分を摂りすぎない
塩分の多い食事は、高血圧のリスクを高めます。
高血圧の人は糖尿病の発症率が通常よりも2〜3倍上がるため、予防が重要です。
塩分は、以下の食品に多く含まれています。
- 漬物
- ソーセージ
- かまぼこ
- うどん
- 食パン
塩分を控えるためには、料理の味付けに工夫が必要です。
塩を少なくしてスパイスなどの香辛料を加えたり、出汁を効かせたりすると旨味を感じて満足感が得られます。
わさびや生姜などの薬味を上手く利用すると、薄味でも美味しく感じられます。
たんぱく質を摂取する
たんぱく質は、60代以上で不足する栄養素の一つです。
筋肉や内臓、皮膚や髪などの組織をつくる栄養素で、免疫や代謝機能を維持する働きがあります。
たんぱく質が不足すると、筋力の低下や認知機能の低下を招きます。
筋肉の減少は血糖値を上げるため、毎日の食事で積極的なたんぱく質の摂取が必要です。
たんぱく質は魚や肉、大豆製品や卵に多く含まれています。
不足しがちなたんぱく質を、食べ物から十分に補いましょう。
運動でHbA1cを下げる3つの方法
女性は60代を過ぎると、自然と体重が増えていきます。
そのため、適度な運動によって筋力を維持し代謝を上げて肥満を防ぐのが重要です。
60代以上では激しい運動は体への負担が大きいため、軽めの運動の継続を心がけましょう。
普段運動をしていない人は、急に運動を始めると転倒などによるケガや体調不良を起こす場合があります。
運動をする際は、体への配慮が必要です。
- 発熱や疲れなど体に不調がある場合は運動を休む
- 激しい運動はせず、その人の身体状況に合わせた運動をする
- 水分補給を十分に行う
- 適度に休憩をとる
以下では、HbA1cを下げるのに効果的な運動について解説します。
ラジオ体操
ラジオ体操は体に負担をかけずに全身運動ができるため、血流をよくする効果があります。
さらに、前屈などの体のひねりや屈伸などのさまざまな関節運動も盛り込まれています。
膝や腰に負担がかかる場合は椅子に座って行い、強度も自分で調整が可能です。
5分程の運動量で、有酸素運動と筋力トレーニングの両方を行えるメリットもあります。
道具が不要で室内でも行え、すぐに始められる運動です。
運動が苦手な人でも気軽に取り組めるため、まずは毎日のラジオ体操を継続してみましょう。
ウォーキング
ウォーキングには、脂肪を燃焼する効果があります。
ウォーキングを継続すると肥満を解消させて血管の老化を予防でき、血糖値を下げる効果が期待されます。
脂肪はウォーキングを始めてから20分程で燃焼が始まるため、30分以上行いましょう。
朝日を浴びながらウォーキングをすると、体内時計がリセットされて自律神経が整うので、朝のウォーキングが効果的です。
筋力トレーニング
血糖値を下げるためにはウォーキングなどの有酸素運動に加えて、筋力トレーニングを行うとさらに効果が得られます。
筋力トレーニングは腹筋や腕立て伏せ、ダンベルなど部分的な筋肉を鍛える運動です。
筋力を上げると血液中に糖を蓄える筋肉量が増え、血糖値を下げられます。
60代では上半身よりも下半身の筋肉が衰える傾向があり、スクワットやかかとの上げ下げ運動など足や腰を中心としたトレーニングが重要です。
筋力トレーニングは、体に痛みがある場合は中止して無理のない範囲で行いましょう。
60代女性は食事療法や適度な運動によって高血糖を予防する
女性は60代になると、女性ホルモンの減少や身体機能の低下によってHbA1cの平均値が上がります。
HbA1cは直近の血糖値状態が確認できるため、糖尿病の診断にも利用される重要な数値です。
HbA1cを下げるためには食事療法を基本として、適度な運動の継続が重要です。
食事では肥満や高血圧を予防するために、間食や塩分の多い食事を控える必要があります。
さらに、60代で不足しがちなたんぱく質を補う食事も大切です。
運動は筋力を維持し、代謝を上げて肥満を防ぎます。
ラジオ体操などの全身運動や、ウォーキングによる有酸素運動と併せて筋力トレーニングを行うと、血糖値を下げる効果が得られます。
60代で起こる体の変化と向き合い、HbA1cを上げない体づくりを目指しましょう。