厚生労働省の令和元(2019)年国民健康・栄養調査によると、50代女性で糖尿病が強く疑われる人の割合は5.9%です。
40代女性の割合は2.8%であるため、50代では40代の約2倍に増加しています。
糖尿病は、加齢に伴って発症率が高くなる病気です。
なぜ50代女性は、HbA1cの数値が高くなるのでしょうか。
本記事では、50代女性のHbA1cの平均値やHbA1cが高くなる原因について解説します。
- HbA1cの基本情報と50代女性の平均値
- 50代女性の糖尿病の発症率が上がる原因
- HbA1cを下げる方法
50代女性に起こりやすい症状と糖尿病の関係や、HbA1cを下げる方法についても解説しているため、ぜひ参考にしてください。
HbA1cは直近の血糖値状態を示し、糖尿病の診断や治療の指標となる数値
HbA1cは、検査前の過去1〜2ヶ月における血糖値の平均値がわかる検査です。
糖尿病の診断や、治療の経過を確認するための指標として利用されます。
空腹時や食後の血糖値検査ではその瞬間の数値がわかるのに対し、HbA1cは直近の血糖値の状態がわかります。
ヘモグロビンは赤血球内のタンパク質の一種で、全身の細胞に酸素を送る働きをしています。
ヘモグロビンにはブドウ糖と結合する性質があり、血糖値が高くなるほど糖化ヘモグロビンの数が増加します。
HbA1cは、血液中の糖化ヘモグロビンがどのくらいの割合かを表したものです。
HbA1cは直近の血糖値状態を示すため、慢性的な高血糖が起こっているかがわかります。
以下ではHbA1cの基準値や高くなる原因、HbA1cが高いと発症する糖尿病について解説します。
HbA1cの検査基準と50代女性の平均値
糖尿病は、慢性的な高血糖が特徴的な病気です。
HbA1cは検査前の1〜2ヶ月の血糖値状態がわかるため、糖尿病の診断基準の1つとされています。
HbA1cの基準値は、以下の通りです。
- 糖尿病の疑いが低い状態:5.5%以下
- 将来糖尿病を発症するリスクが高い:5.6〜5.9%
- 糖尿病の疑いが否定できない:6.0〜6.4%
- 糖尿病の可能性が高い:6.5%以上
厚生労働省による令和元年の国民健康・栄養調査では、50代女性のHbA1cの平均値は5.7%です。
40代の平均値は5.4%とされているため、50代では糖尿病のリスクの上昇がみられます。
糖尿病の確定診断はHbA1cの数値だけではなく、追加で行う血糖値検査の結果や症状の有無などによって総合的に判断されます。
HbA1cが高くなる原因
HbA1cは、慢性的な高血糖が起こっている場合に高くなります。
膵臓から分泌されるインスリンは、血糖値を下げる唯一のホルモンです。
血糖値は、インスリンの働きによって一定の濃度に保たれます。
以下は、HbA1cが高くなる主な原因です。
- 遺伝
- 食習慣の悪化
- 運動不足
- 肥満
- ストレス
- 睡眠不足
- 喫煙
- 過度な飲酒
インスリンは加齢に伴って分泌量が低下するため、年齢が上がるとともに高血糖のリスクが高くなります。
女性ホルモンの1つであるエストロゲンは、インスリンの働きを助ける作用をもつホルモンですが、女性は50代を過ぎると卵巣機能の衰退によって、女性ホルモンの減少が起こります。
これらの要因により、50代以上の女性ではインスリンやエストロゲンの減少に伴って、HbA1cが上昇しやすくなります。
エストロゲンが含まれるイソフラボンは、更年期をはじめとする女性の健康づくりに有効な成分として広く知られています。
また、ポリフェノールにはインスリンの働きを高める効果もあるので上手に活用しましょう。
代表的なポリフェノールとインスリンの関係についてまとめました。
HbA1cが高い状態が続くと糖尿病や合併症を発症する
HbA1cが高い状態が続くと、糖尿病を発症します。
以下の症状は、糖尿病で起こる典型的な症状です。
- 尿の量や回数が増える
- 異常に喉が乾いて、たくさん飲み物を飲む
- 常に疲労感や倦怠感がある
- 集中力が低下する
- 急激な体重の減少
糖尿病は初期ではほとんど症状が出ず、自覚症状が出る段階ではすでに糖尿病を発症している場合もあります。
糖尿病では、高血糖によって血管や神経にさまざまな合併症を引き起こします。
糖尿病を発症した場合は、良好な血糖コントロールによる合併症の予防が重要です。
以下の3つの疾患は糖尿病の代表的な合併症で、三大合併症と呼ばれます。
糖尿病性腎症 | 腎臓の糸球体に張り巡らされた毛細血管に障害が起こる合併症。 悪化すると腎臓で血液を濾過できなくなり、人工透析を必要とする。 |
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糖尿病網膜症 | 目の網膜の血管に障害が起こる合併症。 進行すると網膜出血や網膜剥離を起こし、視力の低下や失明する場合もある。 |
糖尿病神経障害 | 高血糖によって全身の神経に障害が起こる合併症。 末端の神経への影響が強く、手や足にしびれや感覚の麻痺などの症状が起こる。足の傷から細菌感染を起こすと、細胞が壊死して足の切断を余儀なくされる場合がある。 |
50代女性で糖尿病の発症率が上がる原因には女性ホルモンの減少が関係している
女性は50代になると女性ホルモンの分泌が減少し、婦人科の疾患や更年期障害などの発症リスクが上がります。
50代で減少する女性ホルモンの1つであるエストロゲンは、女性の生殖機能や身体の健康維持に関わっています。
エストロゲンの主な働きは、以下の通りです。
- 子宮内膜を増殖させて妊娠の準備をする
- 女性らしい丸みのある体型をつくる
- 自律神経を安定させる
- 骨量を保持する
- コレステロールのバランスを整える
- 肌のハリを保つ
エストロゲンの減少によって起こるさまざまな症状は、糖尿病の発症にも強く影響を与えます。
以下では、女性ホルモンの減少で起こる症状と糖尿病の関わりについて解説します。
大豆などのマメ科に多く含まれている植物性エストロゲンをイソフラボンと言います。
50代以上の女性は閉経とともに急激にエストロゲンが減少するため意識的な摂取が推奨されます。
また、イソフラボンをはじめとするポリフェノールはHbA1cの抑制にも役立つので上手に摂取をしましょう。
ポリフェノールを多く含む食品の一覧
更年期障害
更年期とは卵巣機能が減退し始めてから消失するまでの期間にあたり、一般的には閉経前後のそれぞれ5年間をいいます。
更年期障害は女性ホルモンの減少が原因で起こるさまざまな症状によって、日常生活に支障をきたす状態をいいます。
更年期障害で起こる主な症状は、以下の通りです。
- ほてり、のぼせ
- 発汗
- めまい
- 頭痛
- 肩こり
- 腰や背中の痛み
- 関節痛
- 冷え
- しびれ
- 意欲の低下
- イライラする
- 不眠
エストロゲンには、インスリンの作用を助ける働きがあります。
そのため、平均閉経年齢である50歳前後でエストロゲンの分泌が低下すると、インスリンの作用も弱まり一気に糖尿病を発症しやすくなります。
睡眠障害やストレスによって交感神経が活発になると、血糖値を上げるホルモンが働いたりインスリンの効き目を低下させたりして高血糖を起こします。
家族の糖尿病歴や肥満がない人でも、更年期障害によって糖尿病の発症リスクが高まります。
肥満
エストロゲンには、コレステロールのバランスを整える働きがあります。
50代以降ではエストロゲンが減少するため、内臓脂肪が増加し肥満のリスクが上昇します。
肥満は、糖尿病を悪化させる原因の1つです。
しかし、大量のインスリンが必要な状態が続くと、膵臓が疲弊して十分な量のインスリンが分泌できません。
そのため血糖値を下げられなくなり、慢性的な高血糖によって糖尿病を発症します。
50代以上の女性では、肥満によって起こる高血圧の予防も大切です。
糖尿病と高血圧の両方を発症すると動脈硬化を起こしやすくなり、心疾患や脳卒中のリスクが高まります。
アカシアの樹皮に含まれるアントシアニンには、肥満、糖尿病、脂肪肝の抑制作用があることが報告されています。
アカシア樹皮ポリフェノールの肥満・糖尿病抑制作用
うつ症状
更年期に起こるさまざまな症状の1つに、うつ症状があります。
更年期は女性にとって心理的、社会的にも不安定でストレスを受けやすい時期です。
心理的なストレスに女性ホルモンの減少による心身への影響が加わり、うつ症状を起こしやすくなります。
代表的なうつ症状は、以下の通りです。
- 物事に対しての興味を失う
- 気分が落ち込み憂鬱になる
- 絶望的な気持ちになる
- 疲労感が強く、やる気が出ない
- 眠りが浅い、もしくは眠りすぎる
- 食欲がない、もしくは食べすぎる
- 集中力の低下
- 掃除などの家事が手につかなくなる
うつ症状には、糖尿病の典型的な症状と類似している部分があるため、糖尿病の早期発見の妨げになる場合があります。
うつ症状によって生活習慣の乱れが起こると、食事や運動習慣にも影響を与え糖尿病の発症リスクが上がります。
HbA1cを下げるためには食習慣の改善と適度な運動が大切
50代以上の女性は、インスリンやエストロゲンの減少によって血糖値が下げられなくなるため、HbA1cが上昇します。
これらのホルモンは加齢に伴って減少が進むため、今まで健康な人であっても糖尿病を発症する可能性が高くなります。
加齢によるホルモンの減少は、止められません。
50代女性に起こるさまざまな体調不良や疾患を予防するために、早急に生活習慣の改善に取り組みましょう。
以下では、HbA1cを下げる方法について解説します。
糖質と脂質の摂りすぎに気をつける
50代女性では肥満が増加するため、肥満のリスクを高める糖質と脂質を摂りすぎない食事が重要です。
白米やめん類、白いパンには糖質が多く含まれるため、血糖値を上昇させます。
脂質を減らすには揚げ物や炒め物などの油を使う料理ではなく、蒸したり茹でたりして調理する方法にすると脂質を抑えられます。
バターやマヨネーズ、オイルドレッシングには脂質が多く含まれているため、摂りすぎないようにしましょう。
血糖値の急上昇を抑えるには、食事の順番も大切です。
空腹状態から先に糖質を食べ始めると、血糖値が急上昇し血管に負担がかかります。
野菜やきのこ、海藻などの食物繊維やミネラルを多く含む食品から食べ始め、白米などの糖質を最後に食べると血糖値の上昇が穏やかになります。
適度な運動を継続する
更年期を迎えると、エストロゲンの減少によって脂肪が蓄積しやすくなります。
肥満はインスリンの分泌を低下させ、糖尿病の発症リスクを高める原因です。
50代以上の女性は、運動を全くしないと自然に体重が増加してしまいます。
ウォーキングには、脂肪を燃焼する効果やストレスを解消する効果が期待できます。
脂肪の燃焼は20分程で始まるため、30分以上のウォーキングが効果的です。
体調が悪い日や雨の日はお休みするなど、気持ちに余裕を持って取り組むと継続につながります。
50代では早急に禁煙を行う
タバコは糖尿病やがん、循環器疾患、呼吸器疾患など多くの病気の原因です。
タバコにはインスリンの機能を低下させる作用や、交感神経を刺激して血糖値を上昇させる作用があるため糖尿病の発症リスクを高めます。
さらに50代では女性ホルモンの低下によって高血圧や動脈硬化が起こりやすくなり、脳や心臓疾患リスクも高まります。
禁煙には、医療機関で禁煙外来を利用すると効果が期待できます。
禁煙外来は、タバコをやめたい人のための専門外来です。
カウンセリングや生活指導などの精神面のサポートや、ニコチンガムやニコチンパッチを使用したニコチン置換療法などによる禁煙治療を行います。
オンラインによる禁煙外来を行う病院も増えており、病院へ行かずに自宅で指導を受けられます。
1人で禁煙するのが難しい場合には、禁煙外来を活用しましょう。
50代女性は女性ホルモンの減少によってHbA1cの平均値が高くなる
HbA1cは直近の血糖値の状態がわかるため、糖尿病の診断や治療の指標となる重要な数値です。
50代の女性にはHbA1cの上昇がみられ、糖尿病の発症率が高くなります。
慢性的な高血糖になると、糖尿病や合併症を発症します。
さらに、50代の女性が発症しやすい更年期障害や肥満、うつ病は糖尿病の発症リスクを高めます。
HbA1cを下げるには、食事や運動を基本とした生活習慣の改善が重要です。
タバコは糖尿病だけではなく、がんや循環器疾患、脳や心臓疾患の原因となるため早急に禁煙を行う必要があります。
50代女性では加齢に伴ってHbA1cが上昇するため、今まで健康な人であっても糖尿病の発症リスクが上がっていきます。
食事や運動などの生活習慣を見直し、糖尿病の発症を予防しましょう。
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