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糖尿病高齢者が血糖コントロールをより良好に保つためのポイントとは

高齢者が血糖コントロールを保つ方法

中高年に多い生活習慣病の代表ともいえる糖尿病は、年齢が上がるにつれて血糖値のコントロールや合併症予防が難しくなります。

高齢者になると、加齢によって身体機能が低下するだけでなく、認知症を発症したり他の慢性疾患を併発したりするケースが少なくありません。

加えて高齢者は一般成人と異なり、身体機能の低下に伴って外出頻度や食事摂取量といった、基本的な生活機能が低下します。

基本的な日常生活を遂行する能力や認知機能の低下は、糖尿病治療に対する意欲低下などから、血糖コントロールの悪化を招く可能性があります。

血糖コントロールの悪化が及ぼす影響として代表的なものは、高血糖や低血糖を引き起こす頻度の上昇、糖尿病合併症の進行や悪化です。

血糖値の乱高下や糖尿病合併症の悪化は、時に命に関わる重大な病状を招く場合もあるため、日頃からの予防が必要となります。

本記事では、高齢者の特徴を踏まえ、血糖コントロールを良好に保つうえでの基本的な治療やポイントについて解説します。

この記事でわかること
  • 糖尿病高齢者の基本的な血糖コントロールの目標値
  • 糖尿病を患う高齢者の特徴
  • 高齢者が血糖コントロールを良好に保つための生活習慣
目次

高齢者の血糖コントロール目標値は持病や生活の状況などを考慮して設定

持病や生活の状況を考慮

糖尿病治療においていちばん大切な血糖コントロールを良好に保つには、達成可能な目標値の設定が重要です。

血糖コントロールは、日々の食生活や運動習慣などの活動状況と密接に関係し、短期集中的な改善はできません。

糖尿病において、血糖値を良好に保てているか評価するのに用いる検査が、HbA1cの測定です。

HbA1cはグリコヘモグロビンとも呼ばれ、赤血球にあるヘモグロビンと体内に吸収しきれずに余った糖が結合したものの割合で、約1ヶ月の血糖の平均を表します。

HbA1cを下げるには血糖を良好な値としていく必要があるものの、無理な目標の設定は血糖値の急な変動を引き起こすため、身体にとって大きな負担となります。

そのため長期的な経過を重要視する糖尿病治療では、患者が無理なく日常生活をこなしながら治療を継続していけるのが大切です。

そこで糖尿病治療では、患者一人ひとりの食生活はもちろん、経済面や社会活動の有無なども考慮しながら血糖コントロールの目標値を定めていきます。

高齢の糖尿病患者における血糖コントロール目標の指標

日本糖尿病学会と日本老年医学会では、高齢の糖尿病患者における血糖コントロールの指標を明確に定めています。

高齢者の場合は一般成人の糖尿病患者と異なり、心身の健康状態の個人差が大きいだけでなく、一人ひとりの患者に認知機能障害の併存や重症低血糖などのリスクが潜在します。

加えて、多数の疾患を併せ持っている人も少なくないため、薬の飲み合わせや他疾患を悪化させないよう努めなくてはなりません。

そのため高齢者が糖尿病治療をする際には、認知機能の程度や日常生活自立度、年齢や重症低血糖のリスクとなるような薬の服用を把握したうえで目標値を設定します。

以下の表は、高齢糖尿病患者の血糖コントロールの目標値を年齢別に表したものです。

1.認知機能に問題なく、日常生活前半において自立している高齢者

重症低血糖のリスクがある薬は服用していない高齢者重症低血糖のリスクのある薬を服用している高齢者
65歳以上75歳未満HbA1c:7.0%未満65歳以上75歳未満HbA1c: 6.5〜7.0%未満下限値: 6.5%
75歳以上HbA1c:7.0未満75歳以上HbA1c:7.0〜8.0%未満下限値: 7.0%

2.軽度の認知症(認知機能障害)または日常生活において部分的な介助が必要な高齢者

重症低血糖のリスクがある薬を服用していない高齢者重症低血糖のリスクのある薬を服用している高齢者
HbA1c:7.0%未満HbA1c :7.0〜8.0%未満下限値: 7.0%

3.中程度以上の認知症があるまたは日常生活において介助が必要、多くの併存疾患をもつ高齢者

重症低血糖のリスクがある薬を服用していない高齢者重症低血糖のリスクのある薬を服用している高齢者
HbA1c:8.0%未満HbA1c:7.5〜8.5%未満下限値: 7.5%

上記の表に示すように、重症低血糖のリスクを持っている高齢者の場合は、HbA1cの上限だけでなく下限値も設定されます。

そして表に表した大まかな数値をもとに、医師が以下の状況を評価しながら患者の個別性を反映させ、目標値を考えます。

  • 年齢と性別
  • 既往歴
  • 家族構成と周囲からのサポートの有無
  • 日常生活の自立度
  • 糖尿病に罹患している期間や血糖値の推移
  • 他疾患併存の有無
  • 服用中の内服薬 など

上記の内容は、糖尿病に罹患している高齢者の治療や予後を大きく左右するため、治療方針を決めていくにあたって必要不可欠です。

血糖値を保つには高齢の糖尿病患者の特徴を押さえるのが大切

個人の特徴を押さえることが大切

糖尿病を患っている高齢者は、一般成人と比較すると、些細な出来事がきっかけで血糖値が乱高下するという特徴があります。

高齢者は糖尿病に罹患している期間の個人差が大きく、数十年単位で治療している人もいれば、数年前に罹患したばかりの人もいます。

さらに認知機能の低下や糖尿病以外の疾患を併発している場合があるだけでなく、家族構成や生活様式なども人によって様々です。

日常生活において自己管理が必要不可欠な糖尿病は、生活様式や他疾患の病状がセルフケア能力にも影響を及ぼします。

そして加齢による身体機能の低下は、インスリンの分泌能力やインスリンの効果を下げて高血糖に陥る頻度を高めるだけでなく、合併症の進行も招きます。

そのため血糖値が高いからといって、一気に糖分を制限する食事方法に変えたり急に運動を始めたりせず、糖尿病の高齢者の特徴を踏まえて生活するのが大切です。

1.自律神経系の低下で体調の変化への気づきが遅い

加齢によって自律神経系の機能が低下すると、身体の疲れを感じる機会が多くなったり立ちくらみがしたりという症状が頻繁に起こります。

自律神経系の低下により、暑さや寒さを感じる力が低下し、体調が変化しても自分ではその変化に気がつかないという状況に陥る場合も珍しくないです。

さらに、自律神経系の低下は、インスリン分泌とその作用自体にも影響を及ぼします。

処方された薬を忘れずに服用していても、インスリンの分泌に問題が起こると、血糖値はなかなか下がりません。

その一方、食欲不振などが原因で食事量が不足すると、容易に低血糖に陥ってしまうのも高齢者の特徴です。

自律神経系の低下は、低血糖や高血糖に陥っているにも関わらず症状に気がつかず、発見が遅れて重症化してしまいます。

低血糖や高血糖が起きているにも関わらず、見過ごされる機会が多ければ、合併症や心血管系疾患を引き起こすリスクも高まります。

そのため、糖尿病を患う高齢者が食事や運動といった基本的な治療を行う場合は、医師や看護師と一緒に相談しながら自分自身に適したものを見つけるのが大切です。

2.肝機能や腎機能の低下により薬を代謝する機能も変化する

高齢者の生理的な変化のひとつが、肝臓や腎臓といった代謝を担う器官の機能低下です。

薬を経口摂取した場合、胃を通過した後に腸で薬の成分が吸収され、肝臓あるいは腎臓で毒素が取り除かれて体外に排泄されます。

肝臓や腎臓は体内で薬を代謝し、不要な毒素を体外に排泄する作用があるため、薬物療法には肝機能や腎機能の働きが欠かせません。

肝臓では、臓器そのものの重量が減少するとともに、肝臓の血流量が減少します。

そして腎臓で起こる尿の生成力低下は、腎血流量の減少によって糸球体濾過量の減少、尿細管での分泌や再吸収能の低下が原因です。

肝臓や腎臓は経口摂取した薬の毒素となる部分を代謝し、体外に排泄する役割を担います。

しかし上述したように、加齢による変化が原因となって内服薬を代謝する力が低下します。

結果として薬の作用が強く出たり、副作用が出現する頻度が増えたりという問題に直結するため、日常生活でも体調の観察が必要です。

3.認知機能や活動意欲が低下する

認知機能や活動意欲の低下

高齢者は年齢が上がるにつれて、認知機能の低下やそれに伴う活動意欲の低下などが、日常生活を送るうえで徐々に目立つようになります。

前述したように、糖尿病治療において血糖値を良好に保つには、日常的な自己管理は欠かせない要素です。

認知機能の低下は、服薬を忘れる頻度が増えたり食事時間が不規則になったり、運動する機会や外出する頻度の減少を招きます。

短期記憶が障害されていく認知症や認知機能障害では、服薬や食事などの基本的な治療だけに影響を及ぼすわけではありません。

認知機能の低下や活動意欲の低下は、糖尿病治療のなかでも薬物療法に大きな影響を与えます。

糖尿病治療の薬物療法は、薬を服用したり注射したりするタイミングが薬によって細かく分かれているだけでなく、注射薬に関しては手技自体も複雑です。

良好な血糖コントロールを長期的に保つためには、用法と容量をしっかりと守って服用する必要があります。

認知機能や活動意欲の低下は、治療に対して後ろ向きになったり服薬忘れによって病状が変化したりするリスクが高まるため日頃からの健康観察が重要です。

4.疾患に関連した自己管理が複雑化

より良い血糖値の値を維持していくためには、食事や睡眠といった日頃の生活習慣はもちろん、薬の管理も大切です。

高齢者の場合、疾患だけでなく足腰や膝の痛みから様々な薬を服用していたり、複数の病院を定期的に受診したりしている人が少なくありません。

複数の病院から処方されている薬の管理は非常に複雑なため、服用している薬が多いほど重要な薬の飲み忘れや飲み間違いのリスクが高くなります。

糖尿病治療薬の飲み忘れや飲み間違えは、血糖コントロールの悪化を招くだけでなく、低血糖や高血糖などの症状を引き起こす可能性が高いと留意しておきましょう。

高齢者の糖尿病治療は自分自身の体調を観察するのがポイント

自分自身の体調を観察

高齢になると糖尿病の症状や生活習慣において個人差が多く、厳格に血糖値を下げようとすると重症低血糖に陥るリスクが高まります。

高齢者は内服薬が効き過ぎてしまう場合が多いうえに、糖尿病で用いる血糖降下薬には重症低血糖を起こすリスクのある薬剤が多数あります。

血糖降下薬の服用によって引き起こされる低血糖の原因は、薬の副作用によるものと服薬間違いによるものです。

厳格な血糖コントロールを行うと、薬の副作用や飲み間違いが出現した場合は重症化するリスクも高くなります。

そのため高齢者が糖尿病治療に取り組む場合は、低血糖に陥るリスクを常に考慮し、基本的な食事療法や運動療法などに取り組んでいくのが大切です。

規則正しく栄養バランスの整った食事を摂る

食事療法を行う場合は、血糖を下げるのに重点を置かず、バランスの整った食事内容の摂取を心がけるのがポイントです。

高齢者は認知機能や活動意欲の低下や金銭面での事情から、自炊をせずに購入したお惣菜のみで食事をとる機会が多く、野菜不足に陥っているケースも少なくありません。

糖尿病の食事療法では、カロリーや糖質だけでなく、体重減少や低栄養にも気を配るのが大切です。

加齢の影響で活動量が低下し、結果的に骨格筋や骨量が減少するため、高齢者の場合は一般成人より多くのたんぱく質を摂取する必要があります。

一回あたりの食事量が多すぎても少なすぎても身体にとっては負担となるため、自分自身にとって適正なエネルギー量と栄養バランスが考慮された食事を摂るのが大切です。

特に高齢期では、糖尿病以外にも腎疾患や心疾患を抱えている場合があり、主治医や栄養士などに適切なエネルギー摂取量を聞いておくと治療の手助けとなります。

日常的に自炊する習慣があったり、家族が援助してくれたりする場合には、食品交換表の活用や栄養指導に参加するのも効果的です。

自炊の機会が少ない人は、糖尿病療養食の宅配サービスやあらかじめ献立が決められているミールキットなどを使用する方法もあります。

食事療法を効果的に続けていくためには、欠食などをせずに規則正しく一日3食食べるのが基本です。

自分自身の体調をしっかりと観察し、無理のない方法で食事療法を継続しましょう。

常に低血糖への備えをしておく

規則正しい生活習慣と治療薬の管理

糖尿病治療をしている高齢者と低血糖は、切っても切り離せない関係にあります。

低血糖は、薬の副作用や飲み間違いに限らず、糖質制限や食欲の減退による食事摂取量の減少も原因となります。

特に薬によって引き起こされる低血糖は、日常的に起こりうるもので、日常的な備えが大切です。

低血糖に陥る頻度の高い薬剤を、以下の表にまとめました。

スルホニル尿素薬→食後、長時間にわたってインスリンを分泌させ続ける作用を持つ。アマリール(グリメピリド錠)オイグルコンダオニールグリミクロン など
速効型インスリン分泌促進薬→内服後、すぐにインスリンを分泌させて食後の高血糖を是正する。グルファストファスティックシュアポスト
インスリン製剤(注射薬)→不足しているインスリンを補い、血糖値を下げる手助けをする。ヒューマログノボラピットアピドラ

上記は、服薬の間違いや食事摂取量が少なかった場合、薬自体の副作用によって低血糖を引き起こす恐れのある薬です。

高齢者は薬に関連したもの以外にも、あらゆる行動の一部が低血糖の引き金となり得ます。

  • たまたま炭水化物の摂取量がいつもより少なかった
  • 朝昼夜のいずれかを欠食してしまった
  • いつもとは異なる時間に食事をした
  • いつもより運動量が多かった
  • アルコール度数の異なるお酒を飲んだ
  • お酒をいつもより多く飲用した
  • 入浴時間が長かった
  • インスリンの注射部位を変えた

上記に示したように、高齢の糖尿病患者が低血糖になるタイミングは、必ずしも食前とは限りません。

低血糖は活動している時間が多い日中に起こる場合もあれば、夜間に起こる場合もあります。

夜間低血糖といい、生活習慣が乱れたりストレスを感じたりしたときに起こります。

夜間低血糖の症状は、日中に起こる低血糖症状に加えて起床時の頭痛や寝汗、悪夢を見るといった症状が特徴的です。

疑わしい症状が出現した場合はすぐに捕食をするのではなく、血糖値を測定してから必要な分だけの糖分を摂取するといった対処をします。

低血糖は日中でも起こり得るものだと認識し、日頃から一単位分のブドウ糖を、捕食として携帯しておくといった対策もあります。

しかし、日中夜ともに低血糖に陥らないような生活が理想であるため、日頃から規則正しい生活習慣や治療薬などの管理を行いましょう。

日常的な通院に糖尿病手帳などを活用するのが効果的

食べたものやその日の行動を記録

血糖値を良好な値に保っていくには、医師と二人三脚での治療が必要不可欠です。

自宅で自己血糖測定をしている人は、食後の血糖値がなかなか下がらないなどの悩みが出た際に、食べたものやその日の行動を記録しておくと治療に役立ちます。

インスリン治療をしている人は、低血糖や高血糖などが起きた場合も、手帳に記入しておくと安全に基礎インスリンを使用できます。

血圧や体重などを一緒に測定して手帳に記入しておくと、身体の変化を把握できたり治療のモチベーションに繋がったりするのが手帳を活用する利点です。

自己血糖測定をしていない人でも、手帳や日記帳などを活用し、その日の行動や体調について記録しておくと良いでしょう。

自分自身の体調などの記録を積み重ねていくと、自然と食事や活動のバランスに注意を払えるようになるため、体調に気を配った生活ができるようになります。

血糖コントロールを良好に保つには、日々の積み重ねが大切

糖尿病の有無に限らず、高齢者はその日の体調や精神面の状態によって、食事量や活動量が異なります。

検査の結果で血糖値やHbA1cが低かったとはいえ、無理に適正値まで下げようと試みてしまうと、身体だけでなく精神的にも負担がかかります。

糖尿病が悪化すると、病状の程度によっては思うように元通りの身体に戻れないのが高齢者の特徴です。

高齢者が精神的にも身体的にも負担の少ない生活を送るには、身体の諸機能を維持し、社会とのつながりや自立した生活を継続する必要があります。

加えて、低血糖や高血糖が引き金となる重大な合併症を防ぐために、日頃から体調に向き合ったり無理のない食事療法を行ったりするのが大切です。

新聞や雑誌などの媒体で、糖尿病治療に効果的な食事方法などが特集される場面があるものの、その方法が自分自身に適しているとは限りません。

糖質制限に着目した食事に変更したり運動量を増やしたりするのではなく、適正なカロリーと栄養バランス、運動量を意識した生活の継続が大切です。

糖尿病の進行を抑えるだけでなく、合併症への進展を防ぐためにも、かかりつけ医や家族と相談しながら自分に見合った生活の仕方を考えましょう。

この記事の監修者

東京医科大学を卒業後、複数の総合病院内科、東京医科大学病院 糖尿病代謝分泌科を経て、現在の四谷内科・内視鏡クリニックの副院長に就任。


糖尿病専門医でありながら、見逃されやすい内分泌疾患にも精通した総合的な診療をおこなう。

日本糖尿病学会
糖尿病専門医

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