糖尿病は健康診断で行われる血液検査や尿検査で判定され、基準値を超えていない場合は正常と診断されます。
しかし、一部の人は糖尿病検査で正常と診断されても、食後のみ血糖値が急上昇する隠れ糖尿病の可能性があります。
この記事では、隠れ糖尿病について基本的な内容や対策などをまとめました。
- 糖尿病が発症する原因
- 隠れ糖尿病の検査方法
- 隠れ糖尿病の治療や対策
糖尿病検査で血糖値が高めだった人や普段から糖分を摂りすぎている自覚がある人は、検査方法や対策を参考にしてください。
糖尿病は体質や生活習慣の乱れでインスリンに異常が出て発症する

糖尿病は高血糖が恒常化する病気であり、体内の糖分を排出するために尿中に糖が混ざるなど、身体にさまざまな症状が現れます。
糖尿病はインスリン異常の元になった要因によって、以下の2種類に分けられます。
- 1型糖尿病:インスリンが分泌できない状態で血糖値を下げられない
- 2型糖尿病:生活習慣の乱れからインスリン異常が発生する
1型糖尿病はインスリンを分泌するすい臓のβ細胞が破壊されて、インスリンが体内に供給できない状態になります。
発症率は低いものの、細胞が破壊される具体的な原因が判明しておらず、2型糖尿病とは異なる治療が必要です。
一方、2型糖尿病は生活習慣の乱れが要因で発症して、インスリンの分泌量低下やインスリンに対する抵抗性が発生します。
国内で発症する糖尿病の多くが2型糖尿病であり、インスリン異常が継続すると徐々に高血糖が慢性化していきます。
初期段階であれば早期の発見から、生活習慣の改善で治療が可能です。
隠れ糖尿病は2種類のうち、基本的には2型糖尿病に分類されます。
インスリンの働きから摂取した糖分が消費や貯蓄されて血糖値を下げる
糖分を摂取した際、血糖値が上昇して正常値に戻る流れは、以下のとおりです。
- 糖分が体内でブトウ糖に変換されて、血糖値が上昇する
- すい臓からインスリンが分泌される
- インスリンが細胞と結合して、血液中のブドウ糖を取り込む
- 運動などでエネルギーを使う際、取り込んだブドウ糖が消費される
- ブドウ糖が余った場合、インスリンの働きでグリコーゲンや中性脂肪に合成される
- 体内の糖分量が減少して、血糖値が正常値に戻る
インスリンは糖分のエネルギー消費だけでなく、余った糖分を貯蓄する役割を持っています。
インスリンがうまく働かなった場合、余った糖分は血液中に残ってしまい、血糖値の上昇につながります。
糖尿病の検査は空腹時血糖値やHbA1cを基準にして総合的に判断する
糖尿病の検査では、以下の2つの数値と患者の状態が判断基準になります。
- 空腹時血糖値:前日から10時間以上絶食した状態の血糖値
- ヘモグロビンA1c(HbA1c):赤血球のヘモグロビンに含まれるブドウ糖の割合
- 糖尿病の典型的な症状、もしくは糖尿病性網膜症の症状の有無
HbA1cの割合は血糖値が高いほど高くなり、1度高くなった場合は赤血球の寿命である120日間まで数値が変動しません。
そのため、HbA1cから検査前の過去2ヶ月間で血糖値が高くなっていないか判断できます。
検査における数値の基準は、以下のとおりです。
正常 | 正常高値 | 予備群(境界型) | 糖尿病型 | |
---|---|---|---|---|
空腹時血糖値 | ~99mg/dl | 100~109mg/dl | 110~125mg/dl | 126mg/dl~ |
HbA1c | 〜5.5% | 5.6~5.9% | 6.0〜6.4% | 6.5%~ |
上記のうち、どちらか片方で糖尿病型に当てはまった場合は再検査を行います。
両方が糖尿病型に当てはまる、もしくは空腹時血糖値が糖尿病型で典型的な症状などが見られる場合は、糖尿病と診断されます。
隠れ糖尿病は食後のみ血糖値が糖尿病患者と同じように上がる

隠れ糖尿病は空腹時血糖値が正常の範囲内でも、食後血糖値が糖尿病患者と同じ程度まで上昇してしまいます。
正式な医学用語ではありませんが、空腹時血糖値を参照する検査で見つからない点から隠れ糖尿病といわれています。
空腹時血糖値が正常な人の約3割が当てはまる可能性があり、通常は糖尿病が進行して症状や検査結果が出るまで気付けません。
しかし、以下のように空腹時血糖値以外の検査結果から、隠れ糖尿病の疑いが出てくる場合があります。
- HbA1cの診断で正常高値以上の結果が出た
- 尿検査の結果で尿中に糖が出た
上記以外にも空腹時血糖値の数値が高めの場合は、念のため隠れ糖尿病の検査を受けるように勧める医師もいます。
隠れ糖尿病は検査前にブトウ糖を摂取する経口ブドウ糖負荷試験で判断する
隠れ糖尿病か否かを判断するには、空腹時ではなく、食後血糖値を参照しなければいけません。
そのため、通常の糖尿病検査ではなく、経口ブドウ糖負荷試験という専用の検査を行います。
経口ブドウ糖負荷試験は検査前に75gのブドウ糖を飲み、30分おきに数回の採血をして数値の変動を見ます。
検査における数値の基準は、以下のとおりです。
正常 | 予備群(境界型) | 糖尿病型 | |
---|---|---|---|
経口ブドウ糖負荷試験(OGTT) | ~139mg/dl | 140~199mg/dl | 200mg/dl~ |
数回の採血を行うため、途中経過が正常でも1回糖尿病型に該当した場合は、隠れ糖尿病に当てはまります。
隠れ糖尿病の判明後は食事や運動で工夫してインスリンが働けるようにする
隠れ糖尿病が発症する主な原因は、以下のとおりです。
- 糖分を摂取した際のインスリン分泌が遅れている
- 肥満によりインスリン抵抗性がある
インスリン異常は糖尿病の病歴がある親族から遺伝する場合があり、その影響から生まれつきインスリン分泌が遅い人もいます。
インスリンの分泌を促す薬はありますが、体質的な問題から生じる分泌の遅れは簡単には治せません。
しかし、食生活や運動で工夫した場合、インスリンの分泌が遅れた状態でも血糖値を上昇させすぎない対策が可能です。
インスリン抵抗性の原因になる肥満対策もできるため、糖尿病の検査結果が問題なかった人も実践してみましょう。
食事は内臓脂肪を増やさないようにしながら食べる量や栄養バランスを考える

血糖値は糖質の摂取量が多いほど高くなるため、食事における糖質の摂取量は糖尿病治療や高血糖対策で必須項目です。
しかし、糖質を多く摂取していない人でも、肥満気味であると血糖値が高くなる傾向があります。
そのため、食事においては肥満の原因になる脂質の摂取量も調整が必要です。
隠れ糖尿病で血糖値を上昇させないための食事では、以下の項目を意識しましょう。
- 糖分と脂質は過剰摂取を避ける
- 血糖値の上昇を緩やかにする食物繊維の摂取量を増やす
- 2時間以上の食間を空けて、毎日3食を決まった時間に食べる
- 食物繊維の多い食材から食べて、糖分の多い炭水化物は最後に回す
- よく噛んで満腹感を満たしながら、食べ過ぎを防ぐ
食べ過ぎを避けて栄養素の摂取量を調整しつつ、基本は栄養バランスのよい食事が有効な対策になります。
血糖値は約2時間程度で正常値に戻りますが、隠れ糖尿病の人はさらに時間がかかる場合があります。
隠れ糖尿病と診断された人は、食間を空けるべき時間について検査した病院や医師に相談してください。
有酸素運動や筋トレは運動量や回数以上に毎日継続するのが重要である
運動はホルモンを活性化させる効果があるため、ホルモンであるインスリンの働きを補助できます。
特に有酸素運動や筋トレはエネルギーを多く使って、摂取した糖分や脂質を消費できるため、肥満の対策にもなります。
有酸素運動や筋トレを取り入れる場合は、以下の項目を意識しましょう。
- 毎日の運動を継続させる
- 食後に15分間ウォーキングするのが基準
- 2~5分程度の運動を、1日に複数回に分けてやるのも効果がある
運動量が多いほどエネルギー消費を促せますが、重要なのは毎日の運動を継続させる点です。
1日でたくさん動いたとしても、次の日の食事で摂取した糖分や脂質は、当日の運動でしか消費できません。
そのため、短時間の運動でも毎日続けた方が隠れ糖尿病には効果的です。
時間の確保が難しい人は短時間の運動、時間を確保できる人はウォーキングを始めとした有酸素運動や筋トレを継続させてください。
隠れ糖尿病を放置して糖尿病に移行させないように早めに診察や検査を受ける

隠れ糖尿病は食後のみ高血糖になるため、正確には糖尿病を発症していません。
しかし、対策せずに食後血糖値の上昇が慢性化していくと、糖尿病に移行する可能性が常に付きまといます。
隠れ糖尿病の人は健康な人に比べて、心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクも高くなる傾向があります。
そのため、正常値や予備群と診断された場合でも、食生活や運動を変えて対策を始めた方がよいでしょう。
進行するまで自覚するのは難しい病気ですが、身体に違和感を覚えたときは早めに診察や検査を受けるのも重要です。
早期の発見により、糖尿病になる手前で血糖値を上昇させないための対策や治療ができる可能性が上がります。
隠れ糖尿病は食事と運動で対策した場合に糖尿病への移行を防げる
隠れ糖尿病は通常の糖尿病検査で正常と判断された人でも、食後のみ糖尿病患者と同じ高血糖になる症状です。
症状を判定するためには、直前にブドウ糖を摂取した後に採血する経口ブドウ糖負荷試験を受けなければいけません。
糖尿病に移行するまで自覚するのは難しいですが、HbA1cの数値や尿検査の異常から検査を受けるように勧められる場合があります。
隠れ糖尿病に該当した後でも、食事や運動によって肥満を防いでインスリンの働きを促進すると、血糖値の上昇を避けられます。
医師の指示に従いながら、自分ができる範囲で食事や運動などの生活習慣を改善してみてください。