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尿の匂いについて糖尿病患者が知っておきたい原因と観察のポイントを紹介

糖尿病との関連性と観察のポイント

糖尿病になると、病状の進行に伴って出現する多様な症状のひとつとして、泌尿器に関連した諸症状があります。

糖尿病を治療している人は、尿から甘い匂いがするという変化を感じ、医療機関を受診した人もいるのではないでしょうか。

しかし糖尿病で起こる尿の匂いの変化は、病気に関連した症状のひとつにすぎず、病状の進行とともに症状は増加します。

特に糖尿病は腎臓との強い関連性が指摘されており、一番目に見えて感じ取れるのが、腎臓の不調による尿の色や匂いの変化といった泌尿器系の症状です。

できる限り早い段階で身体の変化に気づき、適切な治療を行うのが糖尿病に伴う腎機能障害やその他の疾患の重症化を予防するポイントとなります。

本記事では、糖尿病に特徴的な尿の匂いや日頃から尿を観察するうえでの大切な点について解説していきます。

この記事でわかること
  • 糖尿病によくある尿の匂いの種類
  • 尿の匂いの原因となる身体の状態
  • 糖尿病によくある尿の変化について
目次

糖尿病は病態によって異なる特徴的な匂いが数種類存在する

病態によって匂いが数種類存在

糖尿病患者によくある尿の匂いは、一般的に甘くて独特な匂いがするというイメージを持つ人が多いのではないでしょうか。

しかし糖尿病患者の尿の匂いは甘いとは限らず、特徴は数種類存在しています。

下記に、糖尿病と関連性のある尿の匂いをまとめました。

  • 甘い匂いの尿
  • 甘酸っぱい匂いの尿
  • アンモニア臭が強い尿

上記に示した匂いは、全て身体のどこかで異常が起きている兆候となります。

本来、健康な人の尿はあまり強い匂いはせず、尿が濁ったり色が濃くなったりするという変化もありません。

尿は、身体に不要な物質や余分な水分が、腎臓を通じて外に排出されているものです。

尿を生成する役目を担う腎臓は、体内で様々な物質の排泄量を調節し、体液に含まれている多くの物質のバランスを調整しています。

そのバランスを調整する過程で過剰な水分や電解質といった不要な物質が、尿となって体外に排出されていきます。

したがって尿の匂いが変わるのは、崩れてしまった体液のバランスを補正しようと身体が働いた結果、特定の物質が尿中に多く含まれるのが原因です。

尿の匂いを感じた場合、極端に血糖値が変化していたり尿路感染症を引き起こしていたりする可能性が考えられます。

いつもと異なる尿の匂いを感じた場合には、身体が何らかの異常を知らせていると認識し、医療機関を受診したうえで適切な治療を受けましょう。

尿の匂いは身体の状態を知らせるサインの役目を担っている

身体の状態を知らせるサイン

健常な人間の尿の匂いを感じ取ったとき、基本的にあまり不快感を伴わないといった人が多いのではないでしょうか。

正常な尿は、食べ物や飲み物の状態にも左右されるものの、刺激臭や甘い匂いがするといった特徴はありません。

尿は身体の中に存在する多数の老廃物などを水分とともに排泄しているため、尿にどんなものが含まれているかによって、そのときの匂いや性状が異なります。

肝臓や胆のうなどに異常が起きている場合の尿は、ビリルビンという物質をうまく代謝できなくなるため、ビリルビン尿という独特の匂いを持つのが特徴です。

上記のように、尿は体内の臓器のいずれかに異常が生じて正常な機能が果たせなくなると、尿の色や性状にも異常が出てくるという性質があります。

尿は身体の状態を知らせるサインの役目があり、特に糖尿病は高血糖や低血糖などの異常が尿の匂いにも反映される疾患です。

糖尿病に特徴的な尿の匂いは、時に医療機関において早期に治療が必要なケースもあるため、日常的にしっかりと匂いを確認しておくとよいでしょう。

尿から甘い匂いがする場合

尿から甘い匂いがする場合に一番考えられる身体の異常として挙げられるのが、糖尿病による慢性的な高血糖です。

糖尿病になると、血液中で上昇した糖を下げる役割を担うインスリンの作用が弱まったり、十分な量が分泌されなかったりします。

インスリンは膵臓から分泌され、食事によって高くなった血糖値を適正な値に保つために作用するホルモンです。

インスリンが作用しなければ、血糖値が適正な濃度に保たれず、長期間に及んで高血糖の状態が続きます。

インスリンがしっかりと分泌されていれば、血液中で過剰になった血糖がグルコースという形に姿を変えて、細胞に取り込まれてエネルギーとして活用されます。

しかし糖尿病によってインスリンの分泌や作用が不十分であれば、血液中の糖をうまく細胞内に取り込めません。

血糖が溢れた状態の血液が全身を巡って腎臓にたどり着くと、腎臓にある尿細管という場所で、糖を再吸収します。

ここで再吸収された糖は、体内でエネルギーとして活用されますが、腎臓で再吸収が可能な糖は160〜180mg/dLが限界です。

そのため腎臓で再吸収しきれなかった糖が、尿糖として体外へ排泄されます。

上記に示したように、尿から甘い匂いが漂うのを感じるのは、気づかぬうちに糖尿病に陥っていたり血糖値が乱れていたりする兆候です。

尿から糖が一緒に排泄されてしまっている場合、血糖値を適正な値にコントロールする必要があるため、医療機関を受診しましょう。

すでに糖尿病の治療に取り組んでいる人は、治療の見直しが必要な場合もあります。

定期的に医療機関を受診している人は、治療の見直しや薬の変更を行うケースもあるため、担当医師に尿から甘い匂いがするという変化を伝えるのも大切です。

尿から甘酸っぱいような匂いがする場合

ケトン体が尿中に存在

尿から甘酸っぱいような匂いがする場合は、本来は尿に含まれないケトン体が尿中に存在しているという状況を意味しています。

ケトン体は、体内で脂肪が分解されたり何らかの物質に合成されたりする過程で作られ、糖以外で身体のエネルギー源となって働く物質です。

健康な人の血液中には微量のケトン体が含まれているものの、正常な尿には含まれないという特徴があります。

ケトン体が生成される理由は、主に以下の通りです。

  • 糖が体内でうまく利用されない場合
  • 体内で糖が不足している状態である場合

ケトン体は体内における糖代謝と関係している物質なため、極端な高血糖でも低血糖でもケトン尿が排泄されます。

したがってケトン体が排泄されているときは、身体が以下のような状態に陥っている傾向があります。

  • 重症高血糖
  • 糖尿病性ケトアシドーシス
  • 低血糖

上記に示した身体の状態に共通するのは、いずれも体内の糖をエネルギーとして使用できなくなっているという状況です。

糖は、身体の中でいちばん効率的にエネルギーとしての役割を発揮します。

健康な人の場合は糖が体内に取り込まれると、グルコースとなって体内の細胞に取り込まれてエネルギー源として働きます。

グルコースが細胞に取り込まれる際に、その手助けを担うホルモンがインスリンです。

糖尿病により高血糖の状態が続いていると、インスリンが十分に分泌されなかったりうまく力を発揮できなかったりして、細胞内に取り込まれるグルコースの量が減少します。

逆に低血糖に陥ると、細胞内に取り込まれるはずの糖が少ないため、細胞のエネルギー源としてのグルコースが不足します。

結果的に両者ともに、細胞がグルコースをエネルギーとして取り込めないため、グルコースに替わるエネルギー源として利用されるのがケトン体です。

そこで身体は、筋肉や脂肪細胞に貯蔵されている脂肪酸を利用してケトン体を合成し、細胞のエネルギー源を確保します。

しかしケトン体は、細胞のエネルギー源として働く利点を持つ反面、細胞に取り込まれずに余った場合は体液を酸性に傾けてしまうのが欠点です。

体液が酸性に傾くのは身体にとって好ましくないため、ケトン体が体内に蓄積しないよう、エネルギーとして使用されなかったケトン体は尿と一緒に体外へ排出されます。

そのため尿から甘酸っぱいような尿の匂いを感じた場合は、血糖値に異常が起きているというのを考慮して低血糖や高血糖の症状が出ていないか確認してみましょう。

低血糖や高血糖は身体にとっては好ましくない状態であるため、糖尿病治療が開始された際は血糖値への気配りが大切です。

低血糖や高血糖に陥った際は、ケトン尿が排泄される前に、何らかの症状が出現します。

疑わしいような症状が出現した場合には、放置せずにブドウ糖を摂取するほか医療機関を受診して、重症化を防ぐような心がけが必要です。

尿のアンモニア臭が強い場合

尿路感染症の疑い

排泄された尿から強いアンモニア臭がある場合に考えられるのは、尿路感染症です。

糖尿病と尿路感染症は無関係のように思えるものの、実は密接な関わりがあります。

糖尿病になると身体に備わっている免疫機能の低下によって、様々な感染症に罹患するリスクが高まります。

感染症の中でも、糖尿病患者が遭遇する頻度の高い泌尿器疾患が、尿路感染症と神経因性膀胱です。

糖尿病患者でも神経障害を抱えている場合、神経因性膀胱に陥る可能性が高くなります。

神経因性膀胱は、排尿を司る神経に異常が起きて膀胱の機能が低下した結果、尿がたまる前に排尿してしまったり尿を出しきれなくなったりする状態です。

神経因性膀胱により、膀胱に貯留した尿がいつまでも排泄されないままでいると、尿中の細菌が膀胱内で増加して尿路感染症を引き起こします。

さらに神経因性膀胱によって膀胱の筋肉が思うように働かなくなると、尿が膀胱や尿管といった尿路に逆流するため、皮膚や下着に付着した細菌が尿路に侵入します。

本来、人間の体は腎臓で尿が作られて排泄されるまでの通り道は、細菌が存在しない状態です。

そのため健常な尿の場合、尿自体に強い臭気や濁りはなく、透明に近い色から淡い黄色に近い色調をしています。

しかし何らかの細菌が膀胱内で増殖したり、尿を排泄する段階で尿道などから細菌が侵入すると、尿の成分である尿素が細菌に反応します。

尿素と細菌の接触により、発生する物質がアンモニアです。

アンモニアには独特の刺激臭があるため、膀胱炎などの尿路感染症になると尿の匂いがきついという症状を自覚する人が一定数以上います。

さらに糖尿病治療をしている人の場合、尿路感染症の原因が神経因性膀胱だけであるとは限りません。

糖尿病の内服薬には尿路感染症を引き起こす頻度を高める薬も含まれているため、たとえ神経障害を起こしていない場合でも、日頃から尿の状態を確認するのが大切です。

数ある糖尿病治療薬の中でも、SGLT2阻害薬という種類の薬を服用している場合は、尿路感染症に陥る頻度の増加が指摘されています。

SGLT2阻害薬には、下記のような内服薬があります。

  • スーグラ
  • フォシーガ
  • ジャディアンス
  • カナグル
  • デベルザ など

上記に示した薬剤以外でもSGLT2阻害薬は存在するものの、薬を服用した人が必ず尿路感染症を引き起こす訳ではないのも気に留めておきましょう。

ただし、尿路感染症に至る頻度自体は多くなるというリスクを持っているため、日頃から身体を清潔に保つと共に尿の状態を観察するのが大切な予防行動となります。

早期に尿路感染症を予防できた場合には、抗生剤の内服を数日継続するだけで治療を終えられる場合がほとんどです。

しかし、尿路感染かもしれないという症状を見逃したまま経過すると、感染が尿管や腎臓にまで及ぶため重症化を招きます。

尿路感染が腎臓にまで及ぶと、腎盂腎炎を引き起こし、そこから敗血症にまで至るケースもあります。

敗血症まで発展した感染症は、時にはショック状態などの命に関わる病態に発展する場合も少なくないため、全身の集中治療が必要です。

尿路感染の重症化を防ぐためには、日頃から陰部を清潔に保つだけではなく、尿の性状や匂いなどもチェックしてください。

異常を早期発見するためには糖尿病によくある尿の性状への理解が大切

尿の性状や匂いを日頃から記録

尿の異常は匂いだけではなく、尿の色や濁り具合などの性状も変化する場合が多いため、尿全体が変化していないかを把握するのが大切です。

特に匂いの変化がどういったものか分からない場合は、尿の性状も併せて確認しておきましょう。

日頃から尿量や尿回数、性状や匂いなどを紙に書いたりスマートフォンのアプリを活用したりして、日記のように記録しておくと便利です。

他にも、早い段階で尿の異常に気がつくために、あらかじめ正常な尿の状態を知っておくのもひとつのポイントとなります。

尿糖などは、実際に尿に含まれていても少量から中等量であると、匂いに気づかない場合もあります。

そのため尿の匂いだけを手がかりにせず、身体の状態を知っておくためのひとつの手段として尿を日頃から観察しておくのは糖尿病の自己管理において大切なポイントです。

異常を察知するためには正常な尿の状態を押さえておく

正常な尿の状態は淡い黄色から淡黄褐色で、濁りのない状態である場合が多いです。

尿の成分の約90%以上は身体の中で不要とされた水分であるため、粘度は極めて低く、とろみがかったものが排泄されるという事態はありません。

水分以外には尿素窒素や尿酸など、体内で使われなくなった老廃物が含まれており、その中には微量のアンモニアも含まれています。

そのため尿そのものは正常であっても無臭ではなく、ごく僅かにアンモニアのような匂いを感じる場合もあります。

一般的な成人から排泄される尿の量は、0.8〜1.5L/日が適正量で、回数にすると4〜8回/日です。

尿量は一人ひとりの水分摂取量によって多少は前後するものの、水分摂取量が多い場合は尿自体の水分の比率が多くなるため、色も薄まります。

尿が排泄された時の勢いや便器の色などによって見え方は多少異なるものの、健康な人の尿はサラサラとしていて、基本的に濁りや泡立ちがないのが特徴です。

尿の状態を確認する際には、尿の色や匂いだけに限らず、泡立ちがないかどうかなどの性状まで観察してみてください。

糖尿病に特徴的な尿の性状を見極めるポイントは泡立ちと臭気

尿の性状を見極めるポイント

糖尿病になると尿の匂いだけではなく、性状にも変化が出てきます。

特徴としては一回あたりの尿量が多いうえに、色調は無色に近く、正常の尿回数である4〜8回/日を上回ります。

これは糖尿病患者が常に高血糖にあるため、日常的に喉が渇きやすく、水分摂取量が多いのが原因です。

特に尿の回数は年齢や性別で個人差が多く、高齢期になると膀胱の容量が減少して尿意を我慢できなくなるという変化が生じます。

そのため中高年になるにつれて、尿回数が増える一方で一回量が少なくなるケースもあれば、回数と一回量ともに増える場合もあります。

加えて糖尿病患者の尿に特徴的な性状のひとつとして挙げられるのが、尿の泡立ちと粘稠度です。

糖尿病の尿には体内で処理しきれなかった糖が、尿に含まれて体外へ排泄されるため、とろみがかった尿が排泄されます。

さらに糖尿病の進行度によっては、腎臓の機能が低下して尿にたんぱく質が漏れ出すため、尿が泡立つ傾向があります。

たんぱく質が尿に漏れ出している場合、時間が経っても尿の泡立ちが消えないのが特徴です。

正常な人でも尿が排泄される際の勢いで泡立った尿が排泄される事例はありますが、時間が経つにつれて泡立ちは次第に消えていきます。

腎機能障害が初期であると、腎機能の低下を示すような症状を他に自覚できないケースもあるため、日頃から尿の状態をしっかり観察しておくとよいでしょう。

尿路感染症に特徴的な尿の性状は濁りの有無

糖尿病になると、尿路感染症に陥る頻度が増えるため、感染症の有無に気をつけて尿を観察するのが大切です。

尿路感染を起こしているときに排泄される尿には、いくつかの特徴があります。

感染により細菌を含んでいる尿は、色調こそは淡黄色から淡黄褐色であるものの、濁った尿が排泄されるのがいちばんの特徴です。

ただし正常な尿の場合でも、時間とともに次第に尿が濁っていくため、見分けがつかない場合には尿回数などの他の症状の有無がないか確かめてみるとよいでしょう。

尿路感染症は、膀胱だけにとどまるものではありません。

膀胱をはじめ、尿管や腎臓に感染症が及んでいるものも尿路感染症とよばれます。

感染が腎臓に及んでしまい、腎盂腎炎を起こしている場合は、腎機能が低下して泡立った尿や血尿が排泄される場合もあります。

腎機能が極端に低下した場合に考えられるのは、尿量の低下や尿が全く出なくなる状況です。

腎臓が持っている尿を生成する力が異常に低下するため、尿量が一気に少なくなります。

しかし感染が腎臓や尿管に及ばず、膀胱炎であった場合は炎症が膀胱の神経を刺激して常に尿意を感じているような状況にいたるため、尿回数が多くなります。

血尿や外陰部の違和感、排尿後に下腹部が痛くなるといった症状も膀胱炎によくある症状です。

膀胱炎をはじめとする尿路感染症は、尿検査や採血といった検査で診断が可能で、軽度の場合は抗生剤の内服で治癒できるケースもあります。

尿の性状や尿意などに変化を感じた場合には、早めに医療機関を受診して適切な治療を受けるのが大切です。

糖尿病治療では尿の匂い以外の観察も大切な自己管理のひとつ

尿の匂い以外の観察も大切

糖尿病は身体で処理できずにいる糖が尿と一緒に排泄されるだけではなく、状況によっては尿に細菌やたんぱく質が含まれて排泄されます。

尿は、そのときの糖尿病の状況や糖尿病腎症の進行度、身体の状態が反映されます。

日常的に血圧や体重を測るのと同じように、糖尿病の人は尿の状態を観察するのも大切な自己管理のひとつです。

尿の異変以外に身体に特に異常を感じていないにもかかわらず、尿の様子がおかしいと受診したのがきっかけで糖尿病を患っているのがわかった人もいます。

尿の匂いだけに気をつけて観察するのではなく、尿の性状や色などにも気を配ってみるのも病気を予防をするうえでのポイントです。

尿は糖尿病や尿路感染症、糖尿病腎症に限らず様々な病気の状態が反映されるものになるため、異変に気づいたら早めに医療機関を受診するとよいでしょう。

この記事の監修者

東京医科大学を卒業後、複数の総合病院内科、東京医科大学病院 糖尿病代謝分泌科を経て、現在の四谷内科・内視鏡クリニックの副院長に就任。


糖尿病専門医でありながら、見逃されやすい内分泌疾患にも精通した総合的な診療をおこなう。

日本糖尿病学会
糖尿病専門医

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