年齢を重ねると基礎代謝や身体機能が低下するため、様々な疾患を患う人が増えていきます。
生活習慣病は50歳になると患者数が増え始め、日本人の5人に人が糖尿病と診断されているのはご存知でしょうか。
糖尿病は早期に発見し治療すると進行を防ぎ、合併症などの影響を予防できる病気として認知されています。
本記事では高齢の糖尿病患者やその家族が、知っておくとよい治療上のポイントについて解説していきます。
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- 高齢者の身体的な特徴と糖尿病の関係性
- 高齢の糖尿病患者が目標とする血糖コントロール値
- 糖尿病治療をしながら生活する際のポイント
高齢者の糖尿病と一般の大人の糖尿病は大きく違う
日本では65歳以上を高齢者とし75歳以上を後期高齢者と定めていますが、医療技術の進歩や健康意識の向上から75歳以上でも若々しく健康的な人は多くいます。
自分の年齢が高齢者に当てはまるからといって、65歳以上の年齢の人全員が、高齢者に特徴的な糖尿病の状態であるとは決められていません。
しかし年齢を重ねるごとに糖尿病になるリスクや合併症を発症するリスクが上昇したり、極端な糖質制限で体調不良を起こしたりする可能性もあるのです。
高齢者の糖尿病治療について知っておきたい人、高齢の家族が糖尿病治療をしている人は高齢者特有の糖尿病治療についてポイントを押さえておきましょう。
糖尿病に関係する高齢者の身体の特徴は3つある
年齢による変化はしばしば糖尿病そのものの悪化を招いたり、低血糖などの症状を招いたりする場合があります。
糖尿病自体の病態や治療に影響を及ぼす高齢者の身体的な特徴のポイントを、3つにまとめました。
- 加齢による身体機能の低下
- 認知機能の低下
- 他疾患との合併
上記の特徴を踏まえたうえで、糖尿病治療のポイントを押さえておくとよいでしょう。
加齢による身体機能の低下
高齢者になると加齢が原因で肝臓や腎臓など、糖の代謝に関わる臓器の機能が低下したり筋肉量や筋力が低下したりします。
ほかにも女性は閉経により骨が脆くなるため、転倒や打撲で骨折するリスクが大きくなるだけでなく、日常生活動作も低下していくのです。
日常生活動作(ADL)の低下と筋力や筋肉量の低下は相互に影響し合っているため、どちらか一方が低下すると筋肉での糖代謝も低下する悪循環に陥ります。
そして高齢者になると、糖尿病以外にも高血圧や脂質異常症などの生活習慣病を併せ持っているケースがあり、何らかの薬を日頃から服用している人も少なくありません。
糖尿病治療のために服用する薬も例外ではなく、副作用として低血糖症状や腎機能障害などの発生頻度が多くなります。
薬の種類によって飲み合わせにも相性があり、薬の効果が強すぎたり弱かったりするのが理由で体調が変化する場合もあります。
認知機能の低下
高齢になると自然と認知機能は低下していきますが、糖尿病は認知機能の低下と大きく関わっています。
認知機能の低下は判断力や思考力、そして判断したり考えたりしたことを行動にする実行力が低下するのです。
糖尿病において判断力や思考力、実行力が低下すると低血糖症状や高血糖症状が発生していても、対処できないという事態を招く可能性もあります。
セルフケア能力の低下は薬の飲み忘れだけでなく、食事療法がうまく出来なかったり運動療法が出来なかったりするのです。
そして認知機能の低下は精神状態とも密接に関係しており、意欲の減退や憂鬱な気分になるなどの気持ちの不調が現れるようになります。
気分の不調やセルフケア能力の低下が、低血糖や高血糖を招く可能性もあります。
このようにセルフケアが必要となる糖尿病治療では、こういった認知機能の低下や意欲の喪失などが血糖コントロールの悪化を招くのです。
他疾患との合併
糖尿病には腎症や網膜症はもちろん、足病変など多彩な合併症を引き起こすリスクがありますが、高齢になると様々な合併症を起こす頻度が高くなります。
合併症を引き起こしているうえに何らかの持病を持っていると治療が複雑化するだけでなく、服薬回数や服薬量の増加につながり、薬の飲み忘れのリスクもあるのです。
普段から糖尿病で食事療法をしている高齢者の場合、飲み合わせなどの影響から高血糖もしくは低血糖になる薬も存在します。
さらに加齢による変化から弁膜症や心不全を発症している場合、運動制限が必要となる人もいます。
そのため糖尿病だけでなく、何らかの疾患に罹っている場合は医師に相談しながら、糖尿病にだけ焦点を向けずに自分に見合った対処法を見つけるのが大切です。
高齢者の血糖コントロール目標は一般成人よりやや高め
高齢の糖尿病患者は動脈硬化が進行していたり、代謝機能が低下していたりなど、様々な加齢による変化が影響し合い認知症を引き起こすリスクを持っています。
認知症は平常に日常生活を送る能力が低下するだけでなく、些細な出来事で寝たきりとなり全身の衰弱につながります。
認知症を予防する観点からも長期的に血糖値を安定させ、なるべく認知機能を保てるようにするのが大切です。
しかし高齢者の糖尿病治療は一般の成人の治療と異なり、病態が複雑で個人差があるため治療においては個別性が重視されています。
そのため高齢者の年齢や併発している疾患、認知機能の状態などによって設定されている目標値は様々です。
高齢者の場合は健康状態や認知機能、日常生活が自立しているかどうかを以下のように3つのカテゴリーに分けて、それぞれが目標とする血糖コントロールの値を定めています。
- 認知機能などに問題がなく自立している場合
- 軽度の認知症や認知機能が低下しており介助が必要な場合
- 明らかに認知機能が低下し介護が必要な状態で他の疾患も抱えている場合
認知機能が正常で自立した日常生活が送れる高齢者
身体的にも認知機能にも問題なく自立した生活を送っている高齢者の場合、血糖コントロールの目標値は以下の通りです。
重症低血糖のリスクがある薬を服用している場合 | 重症低血糖のリスクのある薬は服用していない場合 |
---|---|
65歳以上75歳未満HbA1c: 6.5〜7.0%未満 | 65歳以上75歳未満HbA1c:7.0%未満 |
75歳以上HbA1c:7.0〜8.0%未満 | 75歳以上HbA1c:7.0%未満 |
軽度の認知症や認知機能が低下しており介助が必要な場合
軽度の認知症や認知機能が低下しており介助が必要な高齢者の場合、血糖コントロールの目標値は以下の通りです。
重症低血糖のリスクがある薬を服用している場合 | 重症低血糖のリスクのある薬は服用していない場合 |
---|---|
HbA1c:7.0〜8.0%未満 | HbA1c :7.0%未満 |
明らかに認知機能が低下し介護が必要な状態で他の疾患も抱えている場合
明らかな認知機能の低下があり要介護状態で他の疾患も抱えている高齢者の場合、血糖コントロールの目標値は以下の通りです。
重症低血糖のリスクがある薬を服用している場合 | 重症低血糖のリスクのある薬は服用していない場合 |
---|---|
HbA1c:7.5〜8.5%未満 | HbA1c:8.0%未満 |
上記の表のように、高齢者は加齢により低血糖症状を引き起こす頻度が一般成人と比較すると高いという理由から、HbA1cの目標値は高めに設定されています。
高齢者は一人ひとりが抱えている疾患や服用している薬によって、血糖コントロールの目標値が設定されるのです。
そのため自分もしくは家族が糖尿病治療をする際は、目標とするHbA1cの値やちょっとした体調変化などについて担当医と共有するのがよいでしょう。
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糖尿病とうまく付き合うためのポイントを3つ紹介
前述のとおり高齢になると年齢的な変化によって、糖尿病治療においても様々なリスクが潜在しています。
糖尿病治療は大まかに食事療法と運動療法、薬物療法の3つが基本となりますが、高齢者の場合は病状によって行えない治療法もあるのです。
高齢者の糖尿病治療では生活習慣を改善するにあたって、運動療法や食事療法では出来る範囲が限られてきます。
そのため医師や看護師などの医療スタッフと生活上の注意点を共有しておくだけでなく、ほかにも生活する上でいくつかポイントがあります。
必要な総エネルギー量と栄養バランスを大切にする
高齢者は些細な体調の変化で食事摂取量が減る傾向があり、加えて加齢によって自律神経の機能が低下するため低血糖に陥っていても気がつかないケースがあります。
一般成人と同様に糖質や炭水化物の摂取量を一気に減らすと、知らないうちに低血糖に陥るリスクが発生します。
高齢者の身体的な特徴にフレイルやサルコペニアがありますが、サルコペニアは筋肉量の減少を意味し、食事摂取量や食欲の低下による低栄養が原因で起こります。
サルコペニアを放置すると基礎代謝量や活動量の低下を招き、低栄養の悪化やフレイル(虚弱)と呼ばれる現象が起こり寝たきりに発展するケースも少なくありません。
低血糖やフレイルを予防する観点からも適正なエネルギー量、栄養バランスが整った食事を1日3食規則正しく摂取するのが大切です。
摂取を避ける必要があるものを知らずに摂取すると、薬の効果が過剰になったり効果が発揮されなくなったりするなど治療に影響を及ぼします。
他の疾患を治療している場合は糖尿病の薬だけでなく、他の疾患の治療薬と食事の関係性についてあらかじめ知っておくのが大切です。
糖尿病以外の疾患を抱えており治療している場合は、医師や看護師に内服薬の副作用や摂取を避ける食べ物についての情報を事前に聞いておきましょう。
寝たきりを防ぐためにある程度の活動量を確保する
高齢の糖尿病患者で気を付ける必要があるのは、寝たきりをはじめとするフレイルやサルコペニアです。
寝たきりなどの活動低下を防ぐためには、活動量をある程度確保し筋肉量や筋力を維持する必要があります。
なぜならフレイルやサルコペニアは活動量の低下を招くだけでなく、低栄養の悪化やうつなどの精神状態の悪化も招くためです。
フレイルやサルコペニアを予防するためにはある程度の運動が必要ですが、運動するにあたっては無理をしないのが必須です。
年齢によっては市町村で運営する運動教室やデイサービスを活用したり、自宅でのストレッチや公園などで景色を楽しみつつウォーキングしたりするのも良いでしょう。
高齢者の場合は有酸素運動や筋力トレーニングだけでなく、バランス運動などを取り入れると転倒予防に役立ちます。
そして運動の際には低血糖を防ぐために長時間ではなく、食後1〜2時間以内に開始し30分程度の運動時間に留めます。
運動前に血圧や体温を測定し、血圧が高かったり熱があったりする場合は運動を行うに適した状態ではありません。
運動前は体調の異変を感じていなかった場合でも、運動中に体調の変化を感じたら無理せず運動を中止し、必要に応じて医療機関を受診しましょう。
薬の服薬間違いや飲み忘れを防ぐための工夫をする
高齢になると認知機能の低下だけでなく、視野が狭くなったり視力が弱まったりといった感覚器の変化が現れます。
そのため高齢者は薬の飲み間違いや飲み忘れの頻度が多く、薬が十分な治療効果を発揮できない場合や副作用などの有害事象に悩まされる人も少なくありません。
薬の副作用が起こる原因には加齢による代謝の衰えだけでなく、飲み間違いや飲み忘れも含まれているため、安全に服薬する必要があります。
自宅で手軽にできる服薬管理の方法には、服薬カレンダーを用いたり指定のお薬ケースに服薬する分をセットしたりする方法があります。
しかし服薬の複雑化や介護を担う家族の時間と都合によっては、服薬支援まで手が行き届かない場合も多いです。
無理なく安全に薬を内服するには、医師や薬剤師に相談し内服薬の量を減らしてもらったり一包化してもらったりするような方法があります。
複数のかかりつけ医がいるように複数のかかりつけ薬局にかかっている場合は、薬局を一箇所にまとめるなどの方法も有効です。
薬の服薬方法が複雑であったり、服薬間違いで残薬がバラバラな状態だったりするなどの悩みを抱えている人は、主治医やかかりつけの薬剤師に相談してみると良いでしょう。
高齢者の糖尿病治療では生活機能の維持や向上が大切
糖尿病の治療は病気の進行を予防しながら、合併症や糖尿病に関連する疾患を防ぐのが目的です。
しかし糖尿病の高齢者は認知機能や自律神経などの低下が原因で、高血糖や低血糖を起こしていても気づかないうちに進行しているケースがあります。
さらに肝臓や腎臓といった臓器の機能低下から、治療薬の副作用や低血糖に陥る頻度が多い特徴もあります。
高齢者の場合は些細な体調変化で食事量の低下をきたすため、低栄養が原因となるフレイルやサルコペニアを起こすリスクがある事情を考慮しながら生活するのが大切です。
サルコペニアやフレイルは身体機能の低下や糖尿病の進行リスクなどを上昇させたり、患者本人のQOLも低下させたりする原因となります。
QOLを可能な限り保ちながら糖尿病の治療をするには、高齢者の糖尿病について理解するのが大切です。
糖尿病だけでなく他の疾患を治療している人は、医師や薬剤師と情報を共有したり相談したりしながら治療に取り組んでいきましょう。
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