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糖尿病を運動で改善するには?日常の動さで活動量をアップする方法についても解説

糖尿病を運動で改善するには?日常の動さで活動量をアップする方法についても解説

血糖値をコントロールする最終的な目標は、健康な人と変わらない生活です。

運動は、食事療法と並び糖尿病の症状改善に大きな役割を果たします。

厚生労働省の「国民健康・栄養調査報告」によると日常的に運動している人の割合は男性が33.4%、女性が25.1%であり、約7割の人が運動の習慣がない状況です。

毎日少しずつ体を動かしていると、糖尿病の症状の進行を抑制し健康寿命が伸びるという研究結果もあるため、ぜひ生活に運動を取り入れてください。

この記事では、下記について説明します。

この記事で分かること
  • 普段の生活の中で糖代謝をアップする方法
  • 糖尿病の人が運動する際の注意点
  • 運動すると内臓脂肪の蓄積が解消され生活の質が向上する
目次

普段の生活の中で糖代謝をアップする方法

普段の生活の中で糖代謝をアップする方法

糖尿病の人が継続して運動すると、体内に蓄えられた糖が消費され、血糖値をコントロールするインスリンの働きが改善します。

血糖値は食後に最も上昇する傾向にあるため、食後に5分程度体を動かすと良いといわれています。

運動は、筋肉量をアップさせる筋肉トレーニングと酸素を多く取り込む有酸素運動の組み合わせが最も効果的です。

さらに特別に時間を作らなくても、座っている時間を減らして立ったり歩いたりする時間を増やすと糖の代謝がアップします。

NEATは糖尿病の改善に効果が期待されている

日常生活によるエネルギー消費を非運動性(活動)熱産性といい、NEAT(Non-Exercise-Activity Thermogenesis)が糖尿病の改善に効果があると期待されています。

NEAT 非運動性(活動)熱産生

人間がエネルギーを一番消費するのは基礎代謝で、全体の約60%を占めています。

基礎代謝は、覚醒状態で生命活動を維持する必要最低限のエネルギーです。

6~10%が食事をした後に栄養素が吸収される際に増える代謝、残りの約30%がNEATと運動によって消費されます。

上記の30%の大部分を占めるのがNEATで、安静時と立っているときのエネルギー消費を比較すると、立っている状態では約13%もエネルギー消費が増加するといわれています。

立位の時間を増やすとインスリン感受性が改善する

日常生活に立位時間を増やす

肥満者と非肥満者を比較した日常生活の実験によると、1日当たりの座位時間の長さが、肥満者が非肥満者より164分長かったとの結果があります。

さらに立位時間と歩行時間を合わせた時間では、肥満者の方が非肥満者より152分短いという結果が得られました。

インスリン感受性は、座っている時間を1日の中で50分減らすと3ヶ月間で改善します。

さらに立位や歩行の時間を2.5時間増やすと、約350Kcalのエネルギー消費ができます。

効率よく運動量を増加させる方法は、下記を参考にしてください。

  • テレビを見る際CM中は立ったりその場で足踏みをしたりする
  • 勤務中のトイレは違うフロアのトイレを使用する
  • 座っている時間が30分続いたら立ち上がる
  • デスクワークはスタンディングデスクを試す
  • 読書やスマホは立ったまま楽しむ

有酸素運動とレジスタンス運動を取り入れる

糖尿病患者に有効な運動は、有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせた運動です。

有酸素運動によって内臓の脂肪細胞が小さくなり、血糖をコントロールするインスリンの働きが良くなります。

レジスタンス運動は筋肉量の増加により糖の利用が促進され、糖の消費能力が改善し血糖値が低下します。

運動を中断すると血糖の低下を促す働きが3日で消失するため、継続して行いましょう。

有酸素運動とは

有酸素運動

有酸素運動とは、ウォーキングやジョギングなど全身を大きく動かしてブトウ糖の消費をアップする運動のことです。

ややきついと感じる強度で、多少息切れし汗ばむ程度の運動が望ましいとされています。

負担がかかり過ぎる運動は酸素が十分に取り込めず、余裕があると治療効果が見込めないため中程度の運動強度を目指します。

ウォーキングの理想は、1日1万歩といわれています。

最初は1日に2回15~20分の軽いウォーキングから始め、前日より多い歩数を目標にして徐々に1日1万歩に近づけると良いです。

ウォーキング専用のシューズを用意し、靴ずれなどの小さな傷を作らないようにします。

ウォーキング中は、以下のような歩き方を心がけてください。

  • 心地よいと思える時間帯に歩く
  • 顎を引いて視線は前方を向く
  • 手を大きく振る
  • 膝はできるだけ伸ばす

レジスタンス運動とは

レジスタンス運動

レジスタンス運動とは、ダンベルやスクワットなどの筋肉量をアップさせる運動のことで基礎代謝をあげられる運動です。

持久力と筋力の向上により、体のバランスが安定するため転倒リスクの減少が期待できます。

筋肉量が増大すると一歩の歩幅が大きくなり、ウォーキングでもさらなるエネルギー消費が可能です。

食後に30分おきに自分の体重の重さを利用したレジスタンス運動をすると、食後の高血糖が緩和されます。

レジスタンス運動には下記のような運動があるため、ぜひ参考にしてください。

運動効果方法
スクワット大腿四頭筋や大殿筋に効果あり足は肩幅に開いて上体を前傾ししゃがみこむ
膝に負担がかからないよう椅子を使っても良い
踵上げ下腿や大殿筋に効果あり足を肩幅に開いて膝を伸ばし、踵をあげて5秒ほど静止
壁や椅子を使って転倒を防ぐ
横に足上げ股関節周囲の筋肉に効果あり立ったまま膝を伸ばし、片足を横に伸ばして5秒静止
左右交互に繰り返す

体力に不安がある方ご高齢の方は関節に負担をかけず、軽めの有酸素運動や筋力トレーニングをおすすめします。
運動は無理せず、楽しみながら続けることが大切です。

食事面からの対策をお考えの方は「糖尿病撃退の決め手になる!薬科大学・国立大学が注目する効果とは」の記事もご確認ください。

糖尿病の人が運動する際の注意点

糖尿病の人が運動する際の注意点

強めの運動で症状が悪化したり、新たな合併症を誘発したりするのは避けなければいけません。

特に三大合併症を併発している人は、進行度によって運動の内容が制限されています。

他にも急性感染症を発症している場合も、運動療法は禁止です。

糖尿病の人では、心臓の血管にトラブルがあっても無症状の場合があるため、毎回の運動前に体調を確認します。

下記のチェックリストで1つでも当てはまる場合は休養をとり、医療機関の受診を検討します。

運動前に体調確認
足腰の痛みが強い食欲がない
熱がある二日酔いで体調が悪い
体がだるい、吐き気がある下痢や便秘をしている
頭痛やめまいがする少し動くと息切れ、動機がする
随時血糖値が250㎎/dl以上咳や痰が出る
収縮期血圧が180mmHg以上胸が痛い
脈拍が1分間に100回以上熱中症警報が出ている
過労や睡眠不足で体調が悪い

参照元:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023

糖尿病合併症を発症している人の運動

合併症を発症していても、運動による良い効果を得られる可能性があります。

合併症の症状が軽度の場合は、血圧や脈拍への影響が少ない軽めの運動を選ぶと良いです。

軽めの運動でも継続して行うと、体力の低下が抑制され気分の爽快感が得られます。

3大合併症ごとに注意事項が異なるため、医師と十分に相談しましょう。

糖尿病神経障害とは

合併症 運動時の注意1

糖尿病神経障害は、糖尿病の診断を受けてから比較的早く発症します。

神経伝達を調べる検査では、90%以上の糖尿病患者に神経機能の異常が認められます。

感覚神経障害では下肢を主体とした異常知覚や知覚鈍麻があり、主な症状は下記の通りです。

  • しびれやジンジンとした感覚
  • 不快感を伴う痛み
  • ジンジンとした感覚やみやこむら返り
  • 足先の冷え

知覚が低下した場合、足の怪我に気付かず悪化してしまう可能性があります。

そのため毎日の入浴後や寝る前に、足の状態に変化がないかを確認しましょう。

下記の点を中心に確認すると、毎日のケアがスムーズに行えます。

足の指を観察深爪やささくれがないか
変色部位はないか
タコはないか
下肢のマッサージ皮膚が乾燥するため保湿剤を使用
下から上へ向かって血流とリンパの流れを促す
足指じゃんけん足の指でグー、チョキ、パーの動きをしてみる
血流改善効果やこわばりが改善する

糖尿病網膜症とは

合併症 運動時の注意2

糖尿病網膜症とは、網膜の小さく細い血管に障害を受け、眼底に出血や白斑をきたす病気です。

2型糖尿病患者の糖尿病網膜症発症率は、年間3.83%といわれています。

主な症状は、視界がかすんだり視力が低下したりし、重症例では失明にいたります。

軽度の単純網膜症は運動制限の必要はないものの、重度の単純網膜症の場合は血圧に変動を及ぼすような運動は避けたほうが良いです。

運動中の血圧上昇と血流の増加で、網膜の血管が破綻し眼底出血や硝子体出血を起こす可能性があるため、頭を上下に強く動かしたり息を止めて力んだりしないようにします。

糖尿病性腎症とは

合併症 運動時の注意3

糖尿病性腎症とは高血糖状態が継続した場合に、腎臓の細胞や血液の巡りに異常をきたす疾患です。

一度低下した腎臓の機能は回復せず、徐々に体内の不要な水分や老廃物を尿として排泄できなくなります。

腎機能が低下している際に運動すると、血圧上昇で腎臓の血管に負担がかかってしまい、腎症が進行します。

腎症の悪化に伴い血圧がさらに上昇すると、心臓や脳の血管にダメージを与え重症な疾患を発症しかねません。

尿検査で軽微な異常が認められる場合は運動が可能ですが、尿中蛋白の上昇が継続的に見られた場合は運動の禁止もあり得ます。

運動が禁止となった場合も安静にし続けると体力が低下してしまうため、医師と相談し軽めのストレッチなどをしてみると良いでしょう。

寝起きや食事前の運動は低血糖に注意

運動療法 注意点

インスリンなどの薬物療法中の人は、寝起きや食前に運動すると低血糖を起こす可能性が高いです。

運動は食後に行うようにし、空腹感や強い疲れを感じた場合はすぐに運動を中止します。

他にも運動中に胸痛や空腹感、いつもと違う強い疲れを感じた場合も休養します。

運動後は心臓から拍出される血液量が急速に減少し、血圧低下を招く恐れがあるためクールダウンが必要です。

急に運動をやめるのではなく5~10分かけて運動の強度を下げると、急激な血流の変化を招きにくくなります。

運動すると内臓脂肪の蓄積が解消され生活の質が向上する

運動すると内臓脂肪の蓄積が解消され生活の質が向上する

肥満の人は糖尿病の発症リスクが高く、肥満症の人は体重を2kg減量すると糖尿病を予防できるとされています。

運動療法を始める際には体重以外にも目標を定めると、運動の効果を感じやすくなりモチベーションの維持につながります。

運動療法 体重以外の数値目標

実現が難しい目標はモチベーションを低下させる原因になるため、細かな目標を立てて達成する経験を増やすと良いです。

糖尿病と関連の深い腹囲や血圧、血糖値の自己測定について説明します。

腹囲は内臓肥満の指標

糖尿病をはじめとする生活習慣病の前段階をメタボリックシンドロームとよび、糖尿病の他にも高血圧や高脂血症にも繋がる状態として危険視されています。

メタボリックシンドロームの診断は、腹囲の計測値を基準にします。

男性の腹囲は85cm以下、女性では90cm以下が正常値となり、測定方法は下記の通りです。

  1. 力を抜いた状態でへその高さで測定する
  2. メジャーが水平であるのを確認するため姿見の前で行う
  3. 通常の呼吸をし息を吐いた後に目盛りを読む

測定は食後2時間が経過した後に行うと、食事の影響が受けづらくなります。

メジャーをあてる際は、下着の上からではなく腹部に直接あてて計測します。

腹囲は1ヶ月に1cm程度減らすのを目安とし、ゆっくりと減らしていきましょう。

肥満によりインスリンの効き目が悪くなります。

ポリフェノールの一種には、中性脂肪の取り込みを抑制したり、脂肪のエネルギー燃焼を促進する作用が最新研究で確認されています。

中性脂肪、コレステロールの上昇を抑える作用

血圧と糖尿病の関連

糖尿病と血圧には肥満や喫煙、運動不足などの共通する発症要因があります。

厚生労働省の発表によると、糖尿病の患者数は約370万人、高血圧の患者数は約1,503万人で年々増加傾向です。

糖尿病患者における高血圧の合併率は、糖尿病ではない患者より約2倍高いといわれています。

高血圧患者における糖尿病発症率は、高血圧でない人と比べ約2~3倍高いと指摘されています。

糖尿病と高血圧はどちらも脳梗塞や心筋梗塞などの重大な危険因子であるため、糖尿病患者は血圧を適正に維持して生活しなければいけません。

糖尿病患者で高血圧を合併している人の降圧目標は下記の通りで、収縮期血圧は上の血圧を示し、拡張期血圧は下の血圧を表します。

  • 収縮期血圧130mmHg未満、拡張期血圧80mmHg未満
  • 130/80mmHg以上で治療対象

収縮期血圧が130~139mmHg、拡張期血圧が80~89mmHgの境界型の人は、生活習慣の改善で血圧が下がる可能性があります。

運動で血管の中の機能が改善すると、降圧効果が得られるとされています。

収縮期血圧を120mmHg以下に下げた場合、脳卒中リスクを予防できるとの調査結果もあるため、ぜひ運動を生活に取り入れましょう。

高血圧に効果のある運動は有酸素運動といわれているため、血糖コントロールと共に降圧が期待できます。

血糖値の自己測定の仕方

血糖値のコントロールが不安定な人は、自己測定する場合があります。

厳密に血糖値を目標に近づけたい人は手技を取得する必要があるため、かかりつけ医への相談が必要です。

血糖値をチェックするタイミングは、医師の指示に従って測定します。

吐き気や体調不良など、低血糖症状が疑われる場合にも測定可能です。

合併症予防目標の血糖値は空腹時血糖が130mg/dl未満、食後2時間血糖値が180mg/dl未満と定められています。

糖尿病に対する運動療法は日常生活での活動量アップがおすすめ

糖尿病に対する運動療法は日常生活での活動量アップがおすすめ

仕事や家事で忙しい人は、日常での立位時間を増やして活動量のアップを目指します。

糖尿病の運動療法ではこまめに動いて座っている時間を減らし、継続して運動するのが重要になります。

糖尿病が進行している場合、運動の内容や休息を取るタイミングについては医師への相談が不可欠です。

運動療法に制限が加わっても、医師から安静の指示がない場合は生活の中で立位の時間を増やし活動量をアップすると良いでしょう。

合併症の発症は、自身だけでなく家族にも多大な影響を与えます。

健康な人と変わらない生活を送るため、運動療法で糖代謝を上げ血糖を良好にコントロールしましょう。

そのためには、合併症を予防するのが大切です。

血糖を良好にコントロール

この記事の監修者

東京医科大学を卒業後、複数の総合病院内科、東京医科大学病院 糖尿病代謝分泌科を経て、現在の四谷内科・内視鏡クリニックの副院長に就任。


糖尿病専門医でありながら、見逃されやすい内分泌疾患にも精通した総合的な診療をおこなう。

日本糖尿病学会
糖尿病専門医

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