HbA1cは、糖尿病の診断や治療の経過を確認するために利用されている検査です。
検査前1〜2ヶ月の血糖値を反映するため、日常的な血糖値の状態がわかります。
HbA1cには基準値が定められており、その数値によって糖尿病の進行状態や血糖コントロールができているかなどの確認に利用されます。
糖尿病の治療において、HbA1cの基準値は血糖値の重要な指標です。
この記事では、HbA1cの基準値ガイドラインについて解説します。
- HbA1cとは
- HbA1cの基準値と目標値
- HbA1cを下げる方法
HbA1cが高めのときに役立つ基準値や目標値、HbA1cを下げる方法についても解説しているため、ぜひ参考にしてください。
HbA1cは血糖値を調べる検査であり、糖尿病の診断や治療に利用する
HbA1cは直近の血糖状態がわかるため、糖尿病の診断や治療をするうえで重要な指標となる数値です。
血液に含まれるヘモグロビンは赤血球内のタンパク質の一種で、全身の細胞に酸素を運ぶ役割をもっています。
ヘモグロビンには血液中のブドウ糖と結合する性質があり、一度結合するとヘモグロビンの寿命が尽きるまで離れません。
赤血球の寿命は脊髄でつくられ脾臓で破壊されるまでの120日程度で、毎日新しい赤血球の産生と破壊が繰り返されています。
そのため、HbA1cでは検査前1〜2ヶ月における糖化ヘモグロビンの割合が反映され、直近の血糖値の平均値が確認可能です。
高血糖状態になると糖化ヘモグロビンが増加するため、HbA1cは高い数値を示します。
HbA1cはその瞬間の数値を示す血糖値検査と違い、検査当日の食事や運動による影響を受けないため、糖尿病の診断だけではなく治療効果の確認にも利用される検査です。
ここでは、HbA1cが高くなる原因と症状について解説します。
HbA1cが高くなる原因
HbA1cは、高血糖状態が続いている場合に高くなります。
高血糖とは、膵臓から分泌されるインスリンの不足や効き目の低下によって、血糖値を下げられなくなる状態のことです。
糖尿病は、食習慣や運動習慣などの生活習慣に関与して起こる生活習慣病の一つです。
生活習慣の悪化は血糖値に強く影響を与え、高血糖の原因となります。
HbA1cが高くなる原因には、以下のようなものがあります。
- 遺伝
- 食習慣の悪化
- 運動不足
- 肥満
- ストレス
- 睡眠不足
- 喫煙
- 過度な飲酒
加齢に伴ってインスリンの分泌機能が低下するため、40代以降ではHbA1cが高くなる傾向にあります。
HbA1cが高いときの症状
HbA1cが高い状態であっても、基本的に症状はありません。
しかし、気がつかない間にも体内では高血糖による血管障害が進み、糖尿病がかなり進行した状態で症状が現れます。
糖尿病が進むと現れる代表的な症状は、以下の通りです。
- 尿の回数が増える
- 飲み物をたくさん飲む
- 体がだるい
- 常に疲労感や倦怠感がある
- 集中力がなくなる
尿量の増加や喉の渇きは高血糖による脱水で起こり、糖尿病の典型的な症状です。
ブドウ糖は体や脳を働かせるエネルギー源であり、インスリン機能の低下によってエネルギーが不足すると、疲労感や集中力の低下などの症状が現れます。
HbA1cが高い状態を放置すると合併症などのリスクを生じる
HbA1cは高い状態を放置すると高血糖による血管障害を引き起こし、糖尿病の合併症を発症するリスクを高めます。
高血糖でもほとんど症状が出ず、治療の成果も目に見えて得られないため、放置する人が少なくありません。
高血糖を放置をすると数年〜10年程で目や神経、腎臓などに合併症を起こします。
合併症は、早期発見と早期治療が重要な病気です。
以下の症状が出た場合は、合併症を発症している可能性があります。
- 手足の先にしびれや痛みがある
- 目のかすみがある
- 急に視力が低下した
- 傷が治らない
- 足の感覚がにぶい
- 感染症にかかる頻度が高い
HbA1cが基準値よりも高い場合は、必ず医療機関を受診しましょう。
HbA1cの基準値は糖尿病の診断や治療の目標に活用する
糖尿病の診断や血糖コントロールの目標値には、HbA1cが利用されます。
糖尿病の診断にはHbA1c以外にも空腹時血糖値や75g経口ブドウ糖負荷試験など、複数の検査を必要とします。
これらの検査はその瞬間の血糖値を調べる検査であるのに対し、HbA1cは血糖値の平均値を示す検査です。
その際、同時に行うHbA1cで基準値を超えていた場合には、追加の検査によって食後高血糖の早期発見が可能です。
糖尿病の治療では血糖コントロールの確認にHbA1cを利用し、定期的な検査で良好な血糖値が保てているかを確認します。
ここでは、HbA1cの基準値と目標値、高齢者の血糖コントロールについて解説します。
HbA1cの基準値
HbA1cの検査には基準値のガイドラインがあり、糖尿病の診断に利用されています。
HbA1cは日常的な血糖値の状態が確認ができるため、糖尿病の早期発見にも有効な検査です。
糖尿病は、検査数値によってグループ分けがされています。
数値が正常型では糖尿病の疑いが少なく、糖尿病型は糖尿病の可能性が高い状態を示します。
境界型とは隠れ糖尿病のことで、将来的に糖尿病を発症するリスクが高い状態です。
HbA1cの検査基準値
正常型 | 正常高値 | 境界型 | 糖尿病型 |
---|---|---|---|
~5.5% | ~5.9% | ~6.4% | 6.5%~ |
通常では基準値は6.0%未満とされていますが、特定健診では5.6%以上で特定保健指導の対象とされます。
特定健診とは生活習慣病の予防を目的として、健康保険に加入する40〜74歳を対象に実施される健診のことです。
検査数値が基準値を超えた場合、保健師などの指導を受け生活習慣の改善に取り組む特定保健指導を行います。
HbA1cの目標値
糖尿病の治療では、HbA1cの数値目標を定め血糖コントロールに取り組みます。
糖尿病治療の目的は糖尿病と合併症の進行予防であり、良好な血糖コントロールができている場合は、糖尿病にかかっていない人と同じように生活ができます。
安定した血糖値は、健康寿命や生活の質の維持にも大切です。
HbA1cの目標値の設定は、以下に考慮して行われます。
- 年齢
- 糖尿病を発症してからの期間
- 臓器障害
- 低血糖の危険性
- サポート体制
日本糖尿病学会による『糖尿病治療のガイドライン2022-2023』では、HbA1cのコントロール目標値を以下のように定めています。
血糖正常化を目指す際の目標 | 合併症予防の目標 | 治療強化が困難な際の目標 |
---|---|---|
6.0%未満 | 7.0%未満 | 8.0%未満 |
HbA1cを下げるには、食後や空腹時の血糖値を普段から抑えることが大切です。
カテキン、イソフラボン、アントシアニンなどで知られるポリフェノールには血糖値を抑制する効果が確認されています。
食事習慣に取り入れていくように心がけていきましょう。
ポリフェノールの最新研究データ
高齢者の血糖コントロール目標
高齢者の糖尿病治療では認知機能や身体機能、疾患による影響がさまざまであるため、一律の目標設定が困難です。
年齢を重ねるとインスリンの分泌量が低下するため、高齢者の糖尿病割合は増加傾向にあります。
高齢者の糖尿病では、低血糖リスクが高いのが特徴です。
通常は低血糖を起こすと、冷や汗や動悸、手のふるえなどの症状が現れます。
高齢者の糖尿病治療では、薬物療法も低血糖になる原因です。
加齢とともに薬が体内に蓄積する場合があり、薬の効きすぎによる低血糖のリスクが高まります。
そのため、高齢者の血糖コントロール目標は、認知機能や低血糖リスクを考慮のうえで設定する必要があります。
厳格な血糖コントロールでは血糖値が下がりすぎる危険性があるため、適切な目標値の設定が重要です。
主治医の指導のもとで目標を設定し、血糖コントロールを行いましょう。
HbA1cを下げるためには食事と運動習慣の改善やストレスの解消が大切
HbA1cを下げるためには、血糖コントロールを行い血糖値を安定させる必要があります。
血糖値は1日の中でも、食事や運動、ストレスなどにより上がったり下がったり変動しています。
生活習慣の見直しは、生活習慣病の予防や生活の質の向上にもつながります。
HbA1cを下げるために重要な食事や運動療法のポイントとHbA1cとストレスの関係について、解説します。
食事は食物繊維から食べ始める
食事は血糖値を上げる原因であり、血糖コントロールには食事療法が重要です。
どんな人でも食後は必ず血糖値が上がり、インスリンの働きによってゆっくりと正常値に戻ります。
しかし、血糖値の急上昇を促す食習慣を続けると、徐々に血糖値が下がらなくなります。
食事による血糖値の急上昇を防ぐためには、食事の順番に工夫をしましょう。
炭水化物や糖質を多く含む食品は、血糖値を急上昇させます。
血糖値を緩やかに上昇させるためには、糖の吸収が穏やかな食品から食べ始め、よく噛んでゆっくり食べると効果的です。
糖質の吸収が穏やかな食品は、食物繊維を多く含む食品などがあります。
血糖値を急上昇させる食品 | 血糖値を緩やかに上昇させる食品 |
---|---|
・白米 ・食パンなどの白いパン ・めん類 ・ジャガイモ ・果物 ・甘いお菓子やスナック菓子 ・加工食品 ・ジュース | ・玄米 ・雑穀米 ・十割そば ・全粒粉のパン ・野菜 ・海藻 ・きのこ ・ナッツ |
ブルーベリーなどに多く含まれるプロアントシアニジンには、糖の吸収を抑えたり、血糖値の上昇を抑制する効果が確認されています。
プロアントシアニジンを多く含む食材を意識するなど心がけましょう。
プロアントシアニジンを多く含む食品一覧
毎日継続的に運動をする
運動不足はHbA1cを上げる原因であり、糖尿病の発症リスクを高めます。
継続的な運動は体の中の糖をエネルギーとして消費するため、血糖コントロールには重要です。
運動には肥満を解消させ、血管の老化を予防する効果があります。
ウォーキングは、血糖値を下げる効果が期待できる有酸素運動です。
ウォーキングでは、以下のような効果が期待できます。
- 心肺機能を高める
- コレステロールを下げる
- 筋肉や骨を丈夫にする
- 便秘解消
- 更年期障害の改善
- 認知症予防
- 不眠解消
- ストレス解消
ウォーキングは20分程度で脂肪の燃焼が始まるため、30分以上の運動がおすすめです。
短い時間から始め、慣れてきたら時間を長くするなど工夫をして継続的な運動を目指しましょう。
ウォーキングが難しい場合でも、階段の利用や交通機関を利用せずに歩くようにするなど、日常的な運動が血糖コントロールには重要です。
ストレスを解消させてHbA1cを下げる
ストレスは高血糖に強く影響しHbA1cを上げる原因となるため、上手にストレスを解消させていく必要があります。
ストレスによって分泌される代表的なホルモンに、コルチゾールがあります。
コルチゾールは脂肪の分解や抗炎症作用、免疫抑制などの役割をもつ生命維持に欠かせないホルモンです。
しかし、度重なるストレスによって過剰にコルチゾールが分泌されると、高血糖を起こします。
ストレスは過食や暴飲暴食などの食習慣の悪化や睡眠不足、喫煙など高血糖のリスクを高める原因です。
ストレスはさまざまな病気の原因になるため、以下を参考にライフスタイルに合ったストレス解消法を取り入れましょう。
・朝起きたら、日光を浴びる ・散歩や体操など適度な運動を行う ・湯船に浸かる ・ペットや植物を育てる ・音楽鑑賞やカラオケなど趣味をもつ ・家族や友人とレジャーを楽しむ ・リラックスできる時間をもつ |
HbA1cの基準値は糖尿病の診断や治療に重要な指標となる
HbA1cは検査前の1〜2ヶ月の血糖値の平均値を調べる検査であり、糖尿病の診断や治療の指標となります。
HbA1cは高血糖が継続している場合に高くなるため、糖尿病の早期発見や治療における血糖コントロールの状態の確認に利用されています。
高血糖では症状がほとんどなく、HbA1cが高い状態を放置すると糖尿病や合併症の発症リスクを高めます。
HbA1cの基準値は数値によってグループ分けがされており、糖尿病や隠れ糖尿病の診断に重要です。
糖尿病の治療にはHbA1cの目標値を設定し、安定した血糖コントロールを目指します。
目標の設定は、それぞれの年齢や糖尿病の状態を考慮して行います。
食事は食物繊維などの血糖値を緩やかに上昇させる食品から食べ始め、炭水化物などの糖質を多く含む食品を最後に食べると血糖値の急上昇を抑えられます。
運動では、日常的に有酸素運動を行うと効果が期待できます。
ウォーキングは血糖値を下げるなど、さまざまな効果が期待できるためおすすめです。
ストレスは糖尿病をはじめとする生活習慣病の原因となるため、ライフスタイルに合わせた解消法を取り入れましょう。
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