多汗症

多汗症とは

多汗症とは「恒温動物」である私たち人間は、周りの環境や身体の状態にかかわらず、常に体温を一定に保つ必要があります。暑さや運動、食べたものをエネルギーに変えることなどによって上昇した体温を下げるのに役立つのが汗です。汗は皮膚の表面に存在するエクリン汗腺から分泌され、それが蒸発するときに気化熱として周囲の熱を奪うことで体温を下げます。
多汗症とは、体温調節に必要な量以上の汗をかき、日常生活に支障が出てしまうようなことをいいます。

多汗症のセルフチェック

  • 暑さや運動と関係なく汗をかくことがある
  • 手のひらが汗ばんでいることが多い
  • 本やノートが手汗で濡れる
  • 緊張したときなどに手のひらや脇の下に汗をかく
  • 服の脇の下の部分に黄色っぽい汗染みができる
  • 足の臭いが気になる
  • ほかの人から体臭や汗の臭いを指摘されることがある

など

多汗症の症状の程度(重症度)

レベル1

手が湿って、汗が反射で光り、触ると汗ばんでいることがわかる程度。

レベル2

手に水滴ができるほど濡れており、見ただけで汗をかいていることがわかる程度。

レベル3

汗がしたたり落ちるほど、しきりに水滴が生じる程度。

多汗症の原因

過剰に汗をかく病気である多汗症は全身性と局所性の2つに分けられ、原因もそれぞれで異なります。身体全体に汗をかく場合が全身性、身体のある一部分だけに汗をかく場合が局所性です。

全身性多汗症の主な原因

温熱性発汗

体温を下げるために身体全体から汗が継続的に出ます。汗が出る要因としては、運動や高温の環境、発熱などがあげられます。全身から汗が出るのは、汗を出す汗腺であるエクリン腺が全身にあるためです。


内分泌・代謝性発汗

多くの場合、更年期障害、肥満症、甲状腺機能亢進症、糖尿病などが原因としてあげられます。


神経障害による発汗

神経系の疾患(パーキンソン病など)が原因となる場合があります。


薬剤副作用による発汗

向精神薬、睡眠導入薬、非ステロイド抗炎症薬、長期ステロイド薬などの服用は、まれに発汗を引き起こすことがあります。


感染症による発汗

風邪で汗をかくように、感染症が原因で多汗になる場合があります。


原発性多汗症

この原発性多汗症がもっとも多く、原因が特定できない場合を指します。

局所性多汗症の主な原因

精神性発汗

「冷汗が出る」「手に汗握る」などの表現があるように、精神的な緊張は手のひら、足の裏、脇の下などの部位からの発汗を引き起こすことがあります。


味覚性発汗

辛いものを食べたときなどに出る汗です。これは味覚の刺激による反射反応で、顔面から汗が出ることや、食事が終わると汗が引くことなどが特徴としてあげられます。


神経障害による発汗

胸部交感神経切除後などの神経障害が発汗を引き起こすことがあります。多汗部位が左右非対称である場合、原因が神経疾患である疑いがあります。


原発性多汗症

局所性多汗症も多くの場合、原因ははっきり特定できません。そういったケースを原発性多汗症といいます。

脇の多汗症

脇の多汗症言葉通り、脇の汗に限った多汗症のことです。
原因の分からない過剰な脇汗が6か月以上続いているうえで、次にあげる6つの症状のうち2つ以上が当てはまる場合、「原発性腋窩多汗症」であると診断されます。

  • 初めて症状が出たのが25歳以下である
  • 左右両方で同様に発汗がみられる
  • 睡眠中は汗をかかない
  • 多汗の症状が1週間に1回以上あらわれる
  • 家族が同じ疾患を抱えている
  • 脇汗で日常生活に支障をきたしている

症状は、体温が上がったときや、精神的に緊張したときによりあらわれやすくなります。また、汗腺から出る汗は常在菌により分解され、体臭を生じるため、腋窩多汗症はワキガの原因にもなります。

手・足の多汗症

手・足の多汗症手のひら(掌)や足の裏(蹠)に過剰に汗をかくことを掌蹠多汗症といいます。手のひらだけの場合は手掌多汗症、足の裏だけの場合は足蹠多汗症と呼ぶこともあります。掌蹠多汗症は軽症から重症まで様々な症状があります。
例えば物を持つときやストレスが高まるときなど、特定の状況で汗が出る程度であれば軽症です。重症化すると、常に汗がしたたり落ちるほどになり、日常生活に支障をきたし生活の質を低下させることもあります。

  • 紙類に汗が染みついてしまう
  • 電子機器が汗で故障しやすくなる
  • 汗が気になって握手ができない

などの問題が起こることもあり、それらは精神的なストレスを与え、不安や恐怖感に繋がる可能性があります。手を握ると不快感を与えてしまうのではないかというコンプレックスを抱きやすく、社会的な苦痛を感じやすい疾患のひとつです。
睡眠中には発汗せず、1日の中では10時から18時頃の昼間に症状が出ることが多いです。また、体感温度が下がる寒い時期には発汗量が減り、蒸し暑い時期になると増える傾向があります。

当院で対応している多汗症の治療

ラピフォート®ワイプ

拭くタイプの塗り薬であるラピフォート®ワイプは、脇汗である「原発性腋窩多汗症」に対して使用するものです。塗った部分のムスカリンM3受容体に結合することでアセチルコリンという汗を出す神経の働きを阻害し、脇の下の汗を抑制します。
ラピフォート®ワイプは、1日1回の使用で効果が持続し、拭くタイプなので使い切りなのが特徴の、2022年に多汗症の適用となった比較的新しい薬です。9歳以上であれば使用可能で、1枚1枚が個包装なので衛生的です。
注意すべき点は、後述するエクロックゲル®と同様に、「緑内障や前立腺肥大の方」は使用できない点です。

エクロックゲル®

エクロックゲル®も、脇汗に対する保険適用の塗り薬の1つです。汗腺のアセチルコリンの働きを局所で阻害してわきの下の汗を抑制します。1日1回の塗布で24時間の効果があります。
使用した方のうち、半数近くが日常生活に支障がなくなる程度までの症状の改善と、半分以下になるまでの発汗量の抑制を報告しています。効果が出るまでの期間は2週間程度で、比較的早く症状の改善を実感できるのも特徴です。
一方で、この薬は塗った部分でしか効果を発揮せず、かぶれる場合があるため、処方は肌の状態をみながら行います。なお、ラピフォート®ワイプと同様、「緑内障や前立腺肥大」の方は使用できません。また、臨床試験が行われていないため、12歳以下は使用できないという点にも注意が必要です。

プロ・バンサイン

多汗症に対して使用する抗コリン剤のなかで、唯一保険適用であるのが臭化プロパンテリン(商品名;プロバンサイン)です。その他オキシブチニン(商品名;ポラキス)、コハク酸ソリフェナシン(商品名;ベシケア)などもありますが、どの程度効果があるかはばらつきがあり、口の渇きや眠気などの副作用もあります。
また、同様に作用する「ベシケア®」や、発汗の原因が精神的なストレスである場合には自律神経を整える薬である「グランダキシン®」、抗不安薬で抗コリン作用をもつパロキセチン(商品名;パキシル)などを使用するケースもありますが、いずれも多汗症では保険適用となりません。

アポハイドローション

こちらは多汗症の治療薬として保険適用されている塗り薬です。アポハイドローション20%は、アセチルコリン受容体(ムスカリンM3受容体)を遮断し、アセチルコリンとの結合を防ぐことで、エクリン腺からの発汗を抑えます。その結果、原発性手掌多汗症の症状を改善する効果が期待できます。

漢方薬

多汗症に有効な漢方に「防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)」と「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」があります。どちらも保険適応です。症状に合わせて使い分けます。
防已黄耆湯は、汗を抑える効果があると言われています。むくみや水太り体質の方は、水分バランスが乱れやすく、発汗異常を起こしやすい傾向にあります。防已黄耆湯は、この水分バランスを整え、余分な水分を排出することで、発汗機能をサポートします。
補中益気湯は、胃腸機能の働きを高め、全身の気力を補う効果があります。多汗症のほか、食欲不振、病後の体力増強などに効果があるとされています。

ボツリヌス注射(※当院では行っておりません)

ボツリヌス注射は、ボツリヌス菌由来のタンパク質を精製して作られた薬剤です。注射することで、汗の原因となる皮下組織のエクリン腺を一時的に麻痺させ、脇や手のひら、足の裏などの多汗症や不快な臭いを抑えることができます。皮下に注射するため、処置後は通常通りの生活ができ、ほとんど影響はありません。効果は約3〜6ヶ月となるため、定期的な注射が必要です。なお、重度の場合は保険が適用されますが、軽度の場合は自由診療となります。当院では行っておりませんので、ご希望の方はご紹介いたします。

交感神経遮断術(※当院では行っておりません)

日本皮膚科学会のガイドラインにて内科的治療に反応しない全ての多汗症患者様に対して第一選択肢とされておりますが、保存療法では改善が見られない場合は、手術も検討します。
交感神経遮断術は、交感神経の働きを抑制し、汗を抑えるために胸部の交感神経を一部切除または焼却する治療法です。以前は複雑な手術でしたが、近年では腋の下をわずかに切開し、内視鏡を用いて手術することが可能になりました。手術時間は約10分です。効果は非常に高いですが、副作用として代償性発汗が起こることもあります。
当院では行っておりませんので、ご希望の方はご紹介いたします。

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